蘭の会

+10月号+

■今月のおてがみ 豊原エスさんより

  こんばんは、私は今京都にいます。京都の左京区の、街からちょっと外れたところ。パソコンの箱庭であなたに手紙を書いています。

 ここでの暮らしは私の性に合っているようです。イライラすることや空しく思えることが少々あっても、肺いっぱいに京都を吸い込めば、それでまた何とかやっていくことが出来るのです。ヒラリとはいかないまでも、ヨイショヨイショと乗り切る毎日。京都の風は積み重ねたものを攫っていったりはしません。初めてここへ来た頃の気持ちのままで、私は歳を重ねていきます。あなたは毎日何を思って暮らしているのでしょう。

 京都は道が平らなので自転車で何処まででも行けますよ。あなたを後ろに乗せても(きっと)へっちゃらです。ある通りは真っ直ぐ行けば大文字に行き着いて、またある通りは延々と延々と川に寄り添っています。北へ行けば山。南へ行けば街。いつかあなたを案内しましょうね。交差点の真ん中で見上げると、昼でも夜でも素晴らしい空が広がります。これだけは失いたくないなと感じます。空を見上げない人間になんてなりたくはありませんよね。でも、そんな簡単なことを思い続ける自信も今の私にはありません。当たり前のものに価値を見出し続けるということがどんなに難しいことか、痛いほど知ってしまいましたから。それで私は今京都にいるのです。だから私は今京都にいるのです。まだまだ別のところで暮らす気にはなれません。


 独り言のような手紙になってしまってごめんなさい。でも手紙で会話をしようと思ったら質問ばかりになってしまうでしょう?せっかちだから返事を待つのにもくたびれてしまうし。あなたが私の独り言に温かい関心を持っていてくれたらなぁ。あなたが何の変哲もない私の報告を、心待ちにしていてくれたらなぁ。そしたら私は何度でも手紙を書きます。返事なんか来なくても、いつもあなたへ向けて手紙を書きます。繋がりあっていることを確認するという行為に一体何の意味があるのでしょう?私はただ、あなたのいる方向を向いていたいだけなのです。



 ここにしかいない虫の声を聴きながら、あの月の下のあなたへ

                     二〇〇三年 十月  豊原 拝


■豊原エスさんって、どんなひと?

*1973年7月30日大阪生まれ 現在は京都在住
*現在までに、絵描き・足田メロウと共に自費で詩画集「うた」「ホイッスル」を出版。2003年5月には京都の出版社「青幻舎」から詩画集「歌いなが
ら生きていく」を出版。
豊原エスHP→http://kyoto.cool.ne.jp/esu/

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◆10号のコンテンツ

+詩集「お酒」

おいしいの?おいしくないの?
さびしいの?さびしくないの?

+Web女流詩人コラム

「ゆずれないもの」芳賀梨花子(会員番号000c)

+連載コラム Thinking about Poetry Reading 

好評をいただいている沼谷香澄(会員番号24)のコラム、最終回まであと二回

◆11月号のお知らせ

+月例詩集

+Web女流詩人コラム

+連載コラム Thinking about Poetry Reading 
ポエトリーリーディングを身近にするための沼谷香澄(会員番号24)のコラム、いよいよ最終回



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(ページ及びグラフィック製作 芳賀 梨花子)