ご挨拶  「全国ロービジョンセミナー」の開催に当たりましては、厚生労働省、東京都並びに読売光と愛の事業団をはじめ、多くの関係機関のご支援をいただき厚くお礼申し上げます。  さて、平成18年の10月より施行されました障害者自立支援法は、現在3年後の見直しに伴い、一部改正案が国会に提出されておりますが、視覚障害者の就労支援にはまだまだ種々の課題が残されています。  視覚障害者の就労を進めていくためには、眼科医療チーム・教育・福祉・雇用の各部門の連携や連続性の確保も含め、広く施策の充実と強化が求められています。  そのような観点から、視覚障害者のリハビリテーションサービスに従事する私どもは、ロービジョンケアによる早期の社会参加を促進するために、平成14年より読売光と愛の事業団のお力添えにより「全国ロービジョンセミナー」を開催して参りました。  今年度、本セミナーでは「多面的に考える、糖尿病網膜症の就労への影響と対処法」をテーマに、それぞれの立場から提言をしていただきます。  「基調講演」では、済生会新潟第二病院眼科部長の安藤伸朗氏より「糖尿病網膜症診療の最前線」に関して、また神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢ライトホームの渡辺文治氏より「視覚障害者のリハビリテーション〜糖尿病網膜症の場合〜」について講演いただきます。  「パネルディスカッション」では筑波技術大学教授の長岡英司氏のコーディネートのもと、パネリストの木原暁子氏(マイクロソフト株式会社)、戸塚辰永氏(東京ヘレン・ケラー協会)、向田雅哉氏(運輸安全委員会事務局横浜事務所)から「就労への影響と対処法」をテーマに、それぞれの立場から情報提供と問題提起をしていただき、雇用のノウハウについて議論を深めたいと思います。  また、第二会場では、「職能訓練デモンストレーション」、「関係団体・施設・学校案内」や「ロービジョン機器等の展示会」を開催いたします。  参加者各位の活発なご意見や提言により、実り多いセミナーになることを希望しております。  この機会に演者の皆様の発表要旨を予稿集としてまとめましたので、相談や協力される方々への情報提供として活用していただければ幸いに存じます。 平成21年7月25日 社会福祉法人 日本盲人職能開発センター 理事長 二瓶 隆一 <目次> 【基調講演】 「糖尿病網膜症診療の最前線」 済生会新潟第二病院 安藤伸朗 「視覚障害者のリハビリテーション―糖尿病網膜症の場合―」 神奈川県総合リハビリテーションセンター 七沢ライトホーム 渡辺文治 【パネルディスカッション】 「多面的に考える糖尿病網膜症の就労への影響と対処法」 司会:筑波技術大学 長岡英司 「あせらず、気負わず、あきらめず」 マイクロソフト株式会社 人事本部採用グループ 木原暁子 「頑張り過ぎないことが一番」 (社福)東京ヘレン・ケラー協会 点字出版所 戸塚辰永 「コツコツと通勤し、コツコツと働く。」 運輸安全委員会事務局横浜事務所 向田雅哉 【授業内容デモンストレーション】 日本盲人職能開発センター 【基調講演】 糖尿病網膜症診療の最前線 済生会新潟第二病院 安藤伸朗 はじめに  糖尿病患者が増えている。2002年の糖尿病実態調査(厚生労働省)によると、糖尿病になっている人は約740万人、可能性を否定できない「予備軍」を合計すると約1620万人(成人の6.3人に1人)。これは5年前に比べて250万人の増加であり、2010年には1000万人を超えることが懸念されている。  糖尿病による眼合併症の代表は、網膜症と白内障である。特に網膜症は、無自覚に進行し、自覚症状が現れたときには、すでに失明の危機に瀕した状態であることが多い。1989年の厚生省(当時)による身体障害者手帳(視覚)取得患者の失明原因は、糖尿病網膜症が第一位で、全体の約18%であった。欧米では既に20年ほど前に網膜症が失明原因の第一位で、社会保障や援助、社会復帰のためのリハビリテーションに膨大な予算が必要となり、社会問題となった。  糖尿病による失明は、人生の途中で失明する「中途失明」である。働き盛りで社会の中心的地位を占める40〜50歳を過ぎて目が急に見えなくなると、状況の変化に対応できなくなり、家庭不和や失職などの原因となることもしばしばである。近年、糖尿病患者の精神的ストレスが治療効果に影響することも言われている。糖尿病網膜症に関する正しい知識を身に付け、患者さん自らエンパワーメントすることが大切である。  糖尿病による目の障害は当然、内科治療と深く関わっている。血糖・血圧のコントロールが網膜症の発症・進展に深く関わっていることは、1990年代より多くの多施設スタディーで証明されている。  眼科的治療の2本柱は、網膜光凝固と手術である。光凝固が網膜症治療に有効であることは1953年ドイツで発表された。私が眼科医になった1970年代後半、新潟大学でもキセノン光による光凝固が行われていた。その後1980年代になると日本全国でレーザーによる治療が可能になった。  1971年Robert Machemerにより開発された硝子体手術は、目覚ましく発展し、多くの眼疾患の治療を根本的に変革した。糖尿病網膜症においても例外ではなかった。日本でも1970年代前半から行われ、1970年代後半には全国的に導入している。  最近、網膜症を薬物で治療しようという試みがなされている。視力低下の原因である糖尿病黄斑症や、失明につながる増殖糖尿病網膜症に対して、積極的に薬物療法が施行されている。  検査法としては、これまで蛍光眼底撮影が代表的であったが、造影剤を用いるためショックを起こす危険性があった。近年は、眼底写真をデジタル化しファイリングシステムの導入、網膜の3次元構造を知ることのできる光断層診断計(optical coherence tomography:OCT)も導入した。OCTは非侵襲的であり、かつ網膜の断面や硝子体との癒着を観察できる。  このように診断と治療でこの30年間に大きな進歩があった。今後もこの進歩は続く。糖尿病による失明の撲滅という夢に向かい、ますます忙しくなってきた。  医療はquality of life(QOL)の時代を迎え、人々が抱いている医学そのものへの期待も大きく変化してきている。網膜硝子体の分野は日進月歩で診断技術や治療法が進歩してきたが、「優しい医療」が求められ、可能な限り侵襲の少ない診療が必須となってきた。 T.日本における視覚障害の原因  最近のわが国における視覚障害の原因を表1に示す。主原因の第1位は緑内障20.8%、第2位は糖尿病網膜症19.0%、第3位は網膜色素変性13.4%で、以下、黄斑変性9.1%、高度近視7.6%、脳卒中・脳腫瘍5.2%、先天性の視覚障害5.2%の順であった。表1に示すごとく、前回(1989年)調査と比べると、緑内障(14.5%)、黄斑変性(4.9%)の増加、白内障(15.6%)の減少が著しい。高度近視(10.7%)も減少傾向がみられる。 -------- ここから表 (表1)原因別視覚障害 2001〜2004年調査 原因疾患 視覚障害者数(延数)(名) 割合(%) 順位 緑内障 423名 20.8% 1位 糖尿病網膜症 386名 19.0%  2位 網膜色素変性 273名 13.4% 3位 黄斑変性 186名 9.1% 4位 高度近視 155名 7.6% 5位 脳卒中・脳腫瘍 105名 5.2% 先天性の視覚障害 105名 5.2% 網膜脈絡膜萎縮 86名 4.2% 視神経萎縮 72名 3.5% 角膜疾患 69名 3.4% 白内障 64名 3.1% 外傷 61名 3.0% 網膜剥離 43名 2.1% ぶどう膜炎 43名 2.1% 総実数 2,034名 100.0% 1989年調査 原因疾患 割合(%) 順位 緑内障 14.5% 3位 糖尿病網膜症 18.3% 1位 網膜色素変性 12.2% 4位 黄斑変性 4.9% 高度近視 10.7% 5位 脳卒中・脳腫瘍 3.9% 先天性の視覚障害 − 網膜脈絡膜萎縮 9.8%** 視神経萎縮  角膜疾患 5.8% 白内障 15.6% 2位 外傷 4.2% 網膜剥離 3.3% ぶどう膜炎 2.3% 総実数 *** *複数の原因を有する場合は重複してカウントした. **視神経萎縮を含む. ***総実数:2,161名 -------- 表ここまで  糖尿病網膜症による視覚障害者は18.3%(1991年)から、19.0%(2006年)と増加しているが、緑内障の伸びが14.5%(1991年)から20.8%(2006年)と上回っている。  平成14または16年度の1年間に視覚障害で身体障害者手帳を新規に交付された方を、全国6ブロックに分けて1ブロックから1県と1指定都市を抽出して解析したところ、以下のような結果だった(平成17年度厚労省研究班会議報告)。    1位)緑内障     20.8%    2位)糖尿病網膜症  19.0%    3位)網膜色素変性  13.4%    4位)黄斑変性症    9.1%    5位)高度近視     7.6%  従前これを「成人中途失明」と呼んでいたが、失明の定義はWHOなどでは視力でしか表現されておらず、視野は勘案されていない。1989年は視力のみで判定していたが、2001年から2004年は視野判定も考慮した結果である。WHOの定義などを参考に一応視力0.1以下を「失明」と定義して新規交付者を解析し直すと、以下のようになる(平成18年度厚労省研究班会議報告)。    1位)糖尿病網膜症  24.3%    2位)緑内障     18.9%    3位)黄斑変性     9.8%    4位)高度近視     8.4%    5位)網膜色素変性   7.0%  以上の解析から、我が国における視覚障害の原因疾患として、現在でも糖尿病網膜症がトップと考えられる。 ≪文献≫ 中江公裕ほか.わが国における視覚障害の現況.厚生の指標1991,38(7):13-22. 中江公裕ほか.わが国における視覚障害の現状.厚生労働省難治性疾患克服研究事業 網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究班平成17年度研究報告書,2006,263-267. U.内科治療と網膜症  網膜症を引き起こす二大要因は糖尿病罹病期間と糖尿病コントロールである。罹病期間はどうすることも出来ない。一方血糖コントロールが良ければ網膜症は発症しにくく、進行を食い止めることができることが判ってきた。さらに血圧コントロールが網膜症進行防止に有効である事が判明した。糖尿病罹患当初から網膜症がおこらないように、厳密な血糖と血圧のコントロールが望まれる。  血糖のコントロールの指標として、HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)がよく用いられている。この値が 7%未満 である事が望ましいといわれている。この数値が高いほど網膜症は起こりやすく、重症化し易い。ただし、急速に下がるのもよくない 。 V.糖尿病による視力低下のメカニズム  目はカメラに例えることができる。カメラの大事な部品はレンズとフイルムだ。レンズは水晶体、フイルムは網膜(光や色を感じる視細胞が配列した膜)に相当する。レンズが濁ると光がカメラの中まで届かず、きれいな写真が撮れない。フイルムが傷むと、どんなによいレンズを通しても、映像は現像されない。  糖尿病の場合、レンズの濁りは白内障、フイルムの傷みは網膜症にあたる。糖尿病で視力低下を起こす主な原因は、この二つの病気が最も多い。この他に糖尿病によって引き起こされる目の病気は、血管新生緑内障、角膜障害、眼筋麻痺(物が二つに見える)、虹彩炎(充血,眼痛,視力低下)、視神経症(視力低下)など多くのものがある。 W.糖尿病網膜症の発症メカニズム  糖尿病により網膜毛細血管の閉塞が生じる。閉塞が拡大してくると網膜に血流のない網膜無灌流野を形成する。そのため網膜は低酸素状態になり、網膜無灌流野が大きくなると新生血管を生じるようになる。新生血管は網膜内から硝子体内に伸長したもので、網膜剥離や硝子体出血の原因となる。眼底の中心にある黄斑部の血管が障害を受けると、視力低下の直接的な原因となる。 X.網膜症の進行  糖尿病網膜症は、単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症に分類される。  単純網膜症:病変が網膜の中に限局している段階。糖尿病による出血や毛細血管が膨らんでできる毛細血管瘤、脂肪が沈着した白斑(硬性白斑)などが眼底に出現する。この時期は、視力に影響することが少なく、血糖コントロールを良好に保つと自然に消えていくこともある。糖尿病に罹患して10年で出現することが多い。  前増殖網膜症:単純網膜症ではあるが、近い将来増殖網膜症に移行すると考えられる段階。血管の閉塞による白斑(軟性白斑)が多数出てきたり、血管の走行が異常となり、静脈が異常に拡張する。この段階でも視力に影響しないこともある。この時期がレーザー光凝固に最も適した時期である。  網膜症が軽度でも視力の低下する場合は、黄斑症が疑われる。網膜の中心を黄斑部といい最も視力に関わる重要なところである。黄斑症というのはこの障害が強いものをいう。網膜症が進行していても黄斑部が侵されていなければ視力がよいこともある。たとえ視力が良好でも眼科医による定期的な眼底チェックが必要だ。  増殖網膜症:新生血管が出てくる。この段階では、病変は網膜だけに留まらず硝子体を含み、新生血管、硝子体出血、増殖膜、網膜剥離などが出現する重症な段階。この段階に達すると、かなり治療が困難になる。失明の可能性も高くなる。糖尿病に罹患して15年でこの段階に達することが多い。  網膜症の進行と視力の低下は必ずしも並行せず、初期の頃には全く自覚症状がない。糖尿病と診断されたら、定期的に眼科で精密検査を受ける事が必要だ。   Y.眼科的治療  単純網膜症:血糖コントロールが第一。眼科的には経過観察で充分だが、黄斑症で視力低下がある場合、レーザー治療の適応となる。  前増殖網膜症:新生血管の発生を防ぐためにレーザー光凝固術を行う。この時期がレーザー治療に最適である。  増殖網膜症:新生血管がまだ小さい時にはレーザーで治療できるが、進行すると光凝固法での治療は難しい。硝子体出血を起したり網膜剥離が起これば、硝子体手術が行われる。 【レーザー光凝固術】  増殖網膜症の有効な予防手段はレーザー光凝固術である。新生血管が出てくるのを予防する。また早期であれば新生血管を治療出来る。レーザー治療は、早い時期であれば80%に有効で、時期が遅くなると有効率は50〜60%に低下する。定期的な精密検査で的確な治療の時期を決めることが大事である。レーザーを受けたからといって極端に視力が良くなることは少ないが、将来の安定した視力を確保するために大切な治療である。 【硝子体手術】  硝子体出血や網膜剥離の場合には、硝子体手術という手段がある。出血を取り除き、出血の原因となる場所をレーザーで凝固し、剥離した網膜を元に戻す。病状が比較的軽い段階で手術をすると、成功率が高い。しかし重症になってから手術した場合は、成功率は低下する。また視力が改善するといっても、1.0の正常視力にまで戻る場合は稀で、低視力(ロービジョン)にとどまることが多い。 Z.最新の糖尿病網膜症の進歩  糖尿病網膜症診療の発展は著しいが、最近の特徴を一言で表すと、「優しい医療」すなわち低侵襲な診療と言える。診断においては、光断層診断計(OCT)が代表である。非侵襲的な診断法で、得られる詳細な画像は、多くの疾患の深い理解に繋がっている。非観血的治療としては、抗VEGF療法が注目を浴びている。加齢黄斑変性や血管新生緑内障をはじめ多くの難治性疾患の治療が可能になってきた。手術治療は、小切開硝子体手術が挙げられる。より少ない侵襲で、より効果的な治療を目指す方向が鮮明になってきた。 1)光断層診断計(OCT)  糖尿病網膜症をはじめ多数の黄斑疾患および網膜硝子体疾患に対し、波長830nmのダイオードレーザーによる黄斑部の断面を表示することが可能となった。1991年FujimotoらがOCTの画像化に成功し、1996年Humphrey社からOCT2000が発売された。その後わが国でも開発され瞬く間に全国に普及した。  眼底の断層象が鮮明となり、網膜硝子体界面を詳らかにし、網膜内の構造も可視化した。このことは、糖尿病黄斑症など黄斑疾患の病態解明や治療法の選択に役立つ情報を提供している。今やOCTは眼科診療に重要な機器になった。  糖尿病黄斑浮腫に、OCT上で三つの基本型(網膜膨化、嚢胞様変化、漿液性網膜剥離)がある。特に漿液性網膜剥離はOCTでなければ検出できない所見である。済生会新潟第二病院当院で、2007年1月から2008年4月まで糖尿病黄斑浮腫に対し硝子体手術を行った連続する34眼に対し、OCTにて経時的に調べた。術前OCT検査では(重複も含め)、網膜膨化32眼(94.1%)、嚢胞様変化18眼(52.9%)、漿液性網膜剥離10眼(29.4%)であった。6か月以上OCTにて術後経過観察すると、硝子体手術にて嚢胞様変化の40%、漿液性網膜剥離の57%は消失した。 2)抗VEGF療法  血管新生や血管透過性亢進に関与している血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)を標的としたVEGF阻害剤が注目されている。糖尿病網膜症、糖尿病黄斑症、加齢黄斑変性などで臨床応用が進んでいる。  VEGFは上記疾患の2つの主要な病態、血管新生と血管透過性亢進を促進することが明らかにされ、その阻害薬の臨床応用が実現した。眼科領域で臨床応用されているVEGF阻害剤pegaptanib(商品名Macugen)、ranibizumab(商品名Lucentis)、bevacizumab(商品名Avastin)は、黄斑浮腫や血管新生を軽減させ、少なくても短期的には有効であることが明らかとなった。 1)bevacizumab(商品名アバスチン):VEGFに対するモノクローナル抗体。もともとは 結腸癌の治療薬として開発された。 2)pegaptanib(商品名マクジェン):加齢黄斑変性の治療薬として開発されたVEGFとの高い親和性で特異的に結合する核酸分子(aptamer)。 3)ranibizumab(商品名ルセンティス):加齢黄斑変性の治療薬として開発されたヒト化抗VEGFモノクローナル抗体Fab断片。 最近上記の2)3)は市販されている。しかし、現時点では加齢黄斑変性に限っての使用となっている。増殖糖尿病網膜症に対してbevacizumabの硝子体内注射は、網膜光凝固や硝子体手術に比較して効果が即効性であることが示され、特に活動性の高い線維血管性増殖膜における新生血管や、虹彩および隅角におけるルベオーシスの退縮には効果的である4)。  上記のように抗VEGF剤は劇的な効果をもたらすが、欠点は効果の持続期間が限られていることである。一般に有硝子体眼の方が無硝子体眼よりも効果の持続期間が長いとされているが、血管新生緑内障に関して1〜2カ月のことが多い。すなわち、これらの抗VEGF剤によって血管新生が抑制されている間に、汎網膜光凝固術や濾過手術などの根治療法を行うか、持続的に抗VEGF剤を投与し続けなくてはならない。しかし、抗VEGF剤の登場により、今までは緊急性を要した治療に余裕が生まれているのは紛れもない事実であり、今後本薬剤の有用性は益々クローズアップされると考えられる。  副作用については、微量なのでその発生頻度は極めて低いと考えられるが、脳梗塞の患者には慎重投与ということになっている。 3)小切開硝子体手術  硝子体手術の歴史は、1971年Machemerが経毛様体扁平部硝子体切除を開発したことに始まる。以来硝子体切除は、19〜20ゲージ(G)で行われてきた。2002年de Juanは、経結膜的強膜創にトロカール(カニューラ)を設置する25G硝子体手術システムを開発した。しかし0.9mm(20G)の口径を0.5mm(25G)としたことで、吸引流量が極端に低減し、器具の剛性が低下したため、適応疾患は黄斑疾患に限られていた。2005年、Eckardtはこれらの欠点を補う23G硝子体手術システムを開発して現在に至っている。  小切開硝子体手術は、これまでの20G硝子体手術とは異なる手術であるという認識が必要で、それは白内障手術で白内障嚢外摘出術から水晶体超音波乳化吸引術への変革と似ている。こうした理解と独自の工夫7)がないと、小切開硝子体手術は真の低侵襲硝子体手術にはならない。  小切開硝子体手術の欠点は、術後低眼圧と術後感染である。25Gによる小切開硝子体手術は20Gによる硝子体手術と比較して、術後感染が20倍であったと報告された8)。術後の低眼圧も感染も、創の閉鎖不全が原因であることがほとんどである。対策として、トロカール抜去後、強膜創を充分にマッサージする。それでも漏出を認める場合、一針縫合する。  しかし今や硝子体手術は、27G・30G硝子体手術も模索され、確実に小切開手術に向かって動いている。眼内内視鏡や剪刀類などの周辺器具の開発が望まれる。今後、真に低侵襲手術となるために、術後感染への確実な予防策の確立が急務である。 ≪文献≫ 板谷正紀:光干渉断層計の進化がもたらす最近の眼底画像解析の進歩.臨眼61:1789−1798, 2007 Avery RL, Perlman J, Pieramici DJ et al :Intravitreal bevacizumab(Avastin) in the treatment of proliferative diabetic retinopathy. Ophthalmology 113 : 1695-1705, 2006 Nalluri SR, Chu D, Keresztes R, et al : Risk of Venous Thromboembolism With the Angiogenesis Inhibitor Bevacizumab in Cancer Patients. JAMA 300(19):2277-2285, 2008 門之園一明:硝子体手術の最近の進歩.臨眼 62(6):829‐832、2008 Kunimoto DY, Kaiser RS :Incidence of endophthalmitis after 20- and 25-gauge vitrectomy. Ophthalmology 114(12):2133-2137. 2007 W.眼科医として糖尿病網膜症と向き合う  EBMとNBM  今や医学領域では、EBM(Evidence Based Medicine)全盛である。客観的データに基づいた医療が望まれている。しかし複雑に要因の絡み合った個人の病状を、数値だけで評価出来るのだろうか?  医学は万能ではない。そして患者のどのような要望にも応える完璧な治療は不可能である。ならば我々臨床医は、不満を抱える患者と向き合わなければならない。  患者自身が語る物語から病の背景を理解し、抱えている問題に対して全人格的なアプローチを試みようという臨床手法がNBM(Narrative Based Medicine)である。NBMは、患者との1対1の対話と、信頼関係を重視している。言葉は大事。「治らない」だけでは「通告」になってしまう。「病は完治できないが、あなたの苦しみを一緒に考えよう」と言うと物語は広がる。  時期が熟すまで待ち、患者が自然に語ることが大切。「未だ言葉として語られない物語」、「語られるための時期がまだ熟していない物語」を尊重するという姿勢は、基本的態度の1つである。  疾患(disease)の理解にEBM、悩みや苦しみをともなう病気(illness)の理解にNBMという位置づけもある。車の両輪のように互いが補完し合ってこそ、真の診療につながる。  眼科患者には「抑うつ症状」が多い  わが国では、自殺死亡者が毎年3万人を超え国民的問題になっている。うち3割は「抑うつ症状」が原因とされている。一方視覚障害者に睡眠障害が多いというデータがある。睡眠障害は抑うつ症状と関連が深い。では視覚障害者に抑うつ症状が多いのか?  疫学的うつ病評価尺度 (CES-D〜Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)を用いて、抑うつ症状の評価を行った。この評価法では、20の設問にスコアが与えられ、合計スコアが 16 以上である場合、過去 1 週間の抑うつ症状亢進症状が深刻であることを示す。  対象は、当科で手術を受けた60名の術前患者(一部は術後も施行)。年齢は23から95歳、男性28名女性32名。眼疾患は、白内障が主で、ほかに緑内障、網膜剥離、糖尿病網膜症であった。  結果、60名中合計スコアが16以上の抑うつ症状亢進を呈したのは、7名(12%)であった。CES-Dによる正常人の時点有病率は2〜3%であり、今回の眼科手術患者の抑うつ症状亢進の割合は、有意に高率であった。  眼科手術患者に、抑うつ症状亢進が多いことが示された。心のケアが大事であるといわれるが、眼科医は、眼科手術を受ける患者は抑うつ症状が亢進するリスクが高いということを考えに入れて、それに応じた対応も心得ることが必要がある。  眼科医の心得  医者の仕事は「患者を治してなんぼ」である。特に眼科はそうである。白内障手術を成功させると、患者は良好な視機能を回復し笑顔をみせ、医者としては最高に満足した心持になる。しかし眼科医が扱うのは「治る病」ばかりでない。  「ロービジョンケア」という言葉を耳にする。ロービジョンケアとは、ロービジョン者のための道具や生活技術を提供することにより、包括的に生活上の困難の解決を図り、社会参加を援助する、、、素晴らしい理念だが、どうしても敗戦処理という感じが否めない。  だがあえて私は、眼科医にとってこそ、ロービジョンケアの理解と実践が必要であると言いたい。特に「治らない病」への対応だ。それ以上に視力を回復できない患者に対して、出来るだけのことを尽くしたのでこれ以上は仕方ないと、自らも諦め患者にもそのように伝えていないか?  最大限に治療しても患者の満足に程遠い視機能に留まった時は、ロービジョンケアを実践する医師に、その後の対応をゆだねよう。残存視機能を最大限に活用すると、患者の生活の質を向上させることが出来る。  ロービジョンケアは、患者の生活に対して手術と同等の効果を生み出すということを、眼科医はもっと認識すべきである。ロービジョンケアが必要な段階の患者を放置していることは、手術が必要な患者を紹介せずに抱えているのとまったく同じである。  眼科医にとってもロービジョンケア医にとっても究極の目標は、患者の満足である。 おわりに  糖尿病による視力の低下を防ぐためには、糖尿病を早く発見すること、そして罹っていることが判ったら、内科の医師の指示に従ってきちんとコントロールして行くことが基本である。そして、眼の自覚症状がなくても年に1〜2回は眼科医で眼底検査を受けることである。網膜症が進行したら早期に適切なレーザー治療を行い、その後もきちんと定期検査や治療を継続していく事が重要である。  糖尿病は一度診断されたら、一生糖尿病から逃れる事はできない。糖尿病について勉強して、きちんとした知識を身につけ、自分の責任で上手に糖尿病とおつきあいすることが糖尿病に対してエンパワーメントする近道である。 視覚障害者のリハビリテーション − 糖尿病網膜症の場合 − 神奈川県総合リハビリテーションセンター 七沢ライトホーム 渡辺 文治 1.はじめに  糖尿病のため視覚に障害を受ける人は非常に多く、その障害の程度や糖尿病自体の進行状況は様々である。  七沢ライトホームは中途の視覚障害者の支援を目的とする生活訓練施設である。ここを利用するのはかなり重度の状態になってからの場合が多い。従って、我々がサービスを提供している糖尿病網膜症患者の方々は、多くの糖尿病網膜症患者の平均的な例とはいえないであろう。  しかし、ライトホームを利用せざるを得ないような重度の方の状態を示すことで、視覚に障害を持つ糖尿病の方のリハビリテーションを考える際の参考となると考え、本稿では七沢ライトホームの経験を中心に報告する。 2.利用者数  七沢ライトホームの入所者の例を元に説明する。図1に5年ごとのライトホーム利用者数を疾患別に示した。1980年代は、糖尿病網膜症の利用者数が急激に増加し、利用者のほとんどが糖尿病になるのではないかと思われるような状態であった。しかし、1992年頃をピークに利用者数は低下してきた。しかし、2000年代になり、利用者数は再び増加傾向にある。  生活を再建することが目的の中高年ばかりではなく、若年の利用者もあり、あはきの免許取得を目的に進学するケースも多い。 -------- ここから図 図1 疾患別利用者割合の変化 疾患名 利用年 利用者数 ベーチェット病 〜1977年 13名 〜1982年 11名 〜1987年 15名 〜1992年  9名 〜1997年  1名 〜2002年  4名 〜2007年  1名 糖尿病網膜症 〜1977年 10名 〜1982年 23名 〜1987年 28名 〜1992年 32名 〜1997年 24名 〜2002年 19名 〜2007年 22名 網膜色素変性症 〜1977年  9名 〜1982年 17名 〜1987年 17名 〜1992年 16名 〜1997年 13名 〜2002年 19名 〜2007年 13名 中枢性 〜1977年  6名 〜1982年  9名 〜1987年  8名 〜1992年  9名 〜1997年  8名 〜2002年  9名 〜2007年  7名 交通事故 〜1977年  7名 〜1982年  7名 〜1987年  5名 〜1992年  8名 〜1997年  4名 〜2002年  1名 〜2007年  1名 未熟児網膜症 〜1977年  0名 〜1982年  1名 〜1987年  1名 〜1992年  2名 〜1997年  4名 〜2002年  2名 〜2007年  3名 -------- 図ここまで ※ 失明原因が糖尿病の場合のみをカウントしている。そのため、糖尿病を持つ視覚障害者数ということになると実数はもっと多い  3.視覚障害リハビリテーション、生活訓練とは  視覚障害者の生活訓練とは、「視覚以外の感覚を使い、(使える場合はもちろん視覚も使う)安全で効率的な行動に変えていくこと」といっていいだろう。  その目的は視覚障害者の自立(自律)であり、社会復帰である。もちろん、あはき等の職業的自立も含まれる。そのリハビリテーションの内容は表1に示すようなものである。  定型的リハビリテーションの道筋は 受障→障害の固定→社会的リハ・生活訓練→職業訓練→社会復帰 というようなものである。 -------- ここから表 表1 伝統的に行われ、考えられてきたリハビリテーションの内容 (訓練種目→訓練内容) 歩行訓練→誘導・白杖使用 コミュニケーション訓練→点字・PC中心 日常生活訓練→調理等家事・整容動作 他 LV訓練→光学的補助具・CCTV等の処方、訓練 レクリエーション訓練→STT・FD クラフト等 感覚訓練→基礎訓練 -------- 表ここまで  しかし、ライトホームで実際に行っているリハビリテーションの内容は、いわゆる生活訓練だけではなく、以下に示すように実際の生活に即した幅広い内容を含んでいる。 -------- ここから表 表2 実際のリハビリテーション内容 実際の支援内容  ・医療支援  ・服薬等支援  ・居宅設定支援  ・生活手段を考える  ・レクリエーション等 -------- 表ここまで  現在我々が行っている視覚リハの目的は 「視覚に障害のある人に、現状よりも良い生活のできる方法を提示し、実現すること」である。  実際のリハビリテーションのあり方には多様性が求められる。 4.糖尿病網膜症リハの特徴  一般的な視覚障害に対するリハビリテーションの内容と大きな違いはないが、糖尿病網膜症に特有の事情があるため特に配慮すべきことも多い。 4−1 前提としての糖尿病の管理  糖尿病の管理が基本となるため、他の疾患の利用者に比し、医療的な面でいくつかの点に留意する必要がある。以下に示す事項は、本来医療が分担すべきものかもしれない。しかし、ライトホーム利用者の場合は、視覚障害の重い場合が多く、視覚による情報収集がうまくできない。そのため、適切な行動ができず、訓練が必要となる場合が多い。しかし、生活訓練部門だけでは十分な対応ができる訳ではなく、他部門との密接な連携が必要となる。  また、糖尿病網膜症で視覚に障害を受けている方は、多くの場合長期の経過を辿っている。視覚状況のが変化や悪化の経験があり、医療に不信感を持つなど様々な問題を抱えている。  糖尿病の自己管理へ向けての訓練  ・緊急時の対応 低血糖時の対策(糖分補給用の飲み物等の携帯、準備等) 訓練時や夜間の対応  ・食事の管理 制限食に慣れ、量や味付けに関し意識してもらう。     ※ ただし、味や量に関して、苦情、不満は多い。 -------- ここから表 表3 エネルギー制限食 種類  カロリー エネ1  800Kcal エネ2 1000Kcal エネ3 1200Kcal エネ4 1400Kcal エネ5 1600Kcal エネ6 1800Kcal 制限食は、 エネルギー1〜6 蛋白1〜7  脂質1〜2 胃庇護1〜3 高鉄分、低プリン体(痛風) その他 刻み食等々がある。 ※ 常食 男性 2200Kcal      女性 1800Kcal -------- 表ここまで  ・薬の管理  他の疾患に比べ処方されている薬の種類が多いため自己管理が難しい。正しい量を、定時に飲むための練習が必要となるケースが多い。  表4に疾患別に処方されている薬の数を示す。  また、表5に糖尿病網膜症とそれ以外の平均投薬数を示した。  ライトホームを利用した(1996〜1998)利用者の中で、糖尿病網膜症の場合、投薬数は10.1で、他の疾患の3.2に比べると3倍に達する。視覚が使えず、点字も読めない状況でこれらの薬を区分けし、保管することは困難である。定時に、さらに正しく薬を飲むためには、薬を飲む時間(朝食前・後、昼食前・後、夕食前・後、就眠前等)に合わせ、薬を区分けしておく必要性がある。そのため、服薬する時間ごとに薬を分け、順序に取っていけるように保管する習慣を付ける。薬の量や時間に合わせたピルケースの利用等が必要となる。 -------- ここから表 表4 眼疾患別平均投薬数(1998) 疾患名 眼科薬 眼科外薬 投薬合計 糖尿病網膜症 眼科薬2.7 眼科外薬7.4 投薬合計10.1 網膜色素変性症 眼科薬1.1 眼科外薬2.6 投薬合計3.7 緑内障 眼科薬2.7 眼科外薬0.7 投薬合計3.3 視神経萎縮(脳腫瘍) 眼科薬0.3 眼科外薬5.3 投薬合計5.7 視神経萎縮(外傷) 眼科薬1.3 眼科外薬3.7 投薬合計5.0 視神経萎縮(その他) 眼科薬1.2 眼科外薬0.8 投薬合計2.0 ブドウ膜炎 眼科薬1.8 眼科外薬2.4 投薬合計4.2 網膜剥離 眼科薬1.0 眼科外薬1.0 投薬合計2.0 先天眼疾 眼科薬0.5 眼科外薬2.3 投薬合計2.8 眼球破裂 眼科薬0.5 眼科外薬2.3 投薬合計2.8 未熟児網膜症 眼科薬0.0 眼科外薬0.0 投薬合計0.0 平均投薬数 眼科薬1.7 眼科外薬3.5 投薬合計5.2 表5 糖尿病網膜症とそれ以外の平均投薬数(1998) 疾患名 眼科薬 眼科外薬 投薬合計 糖尿病網膜症 眼科薬2.7 眼科外薬7.4 投薬合計10.1 その他 眼科薬1.3 眼科外薬1.9 投薬合計3.2 -------- 表ここまで  ・インシュリン自己注射、血糖チェック ※ 必要な場合  血糖のチェックやインシュリン自己注射は自立した生活を送るために欠かせない条件である。インシュリンの自己注射は、機器の進歩で視覚障害者にも容易に可能となった。しかし、血糖値のチェック、インシュリンの注射のためには以下に述べるような作業が必要である。  指の消毒、血糖チェックのための針をセット、血を出し、計測機器に血を附け、ボタンを押して計測、音声で数値を確認、インシュリンの注射器に針をセット、目盛りを回し量をセット、腹部等を消毒、注射、さらに使用した針、消毒綿等医療廃棄物を片づける。  見えないあるいは、見えにくい状態でこれらの作業をするためには、晴眼者に比し、細かな練習が必要となる場合が多い。一連の作業に慣れるまでには職員のチェックが必要となる。    機材の準備、管理    手順の学習    血液の処理、廃棄物の処理等  ・知覚マヒに関する対策  手足、特に指先に、しびれ・触感覚の低下・指先が冷たい等を訴えるケースも多い。視覚から得られる情報の代わりをする触覚の低下は様々な困難を引き起こす。点字の学習が困難になったり、細かな作業ができない等である。  また、ケガややけど、感染症にも注意が必要となる。直りにくく、エソを起こすこともある。  ・視力低下時の対応 ※ 糖尿病に限らず、利用中に視力低下を起こすことは多い。   ・その他  上記以外にも配慮の必要な事項は多い。以下にいくつか挙げておく。    血糖、血圧の不安定  高血圧が続く例    透析への対応 腎機能の悪化で透析が必要になるケース    脳梗塞    便秘    味覚?  ※ 医療不信   多くの利用者が長期の経過を辿っており、思ったような、あるいは希望したような結果を得られていないため、医療・行政・施設に対し、あるいは職員に対し不信感を持っている場合が多い。信頼を回復することが必要であるが難しい。 4−2 訓練上必要な配慮  生活訓練の目的は、「視覚中心だった行動様式を、他の感覚を使い(使える場合はもちろん視覚も使う)安全で効率的な行動様式に変えること」である。  そのための訓練種目は以下の5つに分けられる。   ・基礎訓練   ・移動に関すること   ・情報収集に関すること   ・生活に関すること   ・レクリエーション それぞれは   ・基礎訓練     導入プログラム     指や手、腕の共応動作     触察能力の向上をめざして     道具、補助具の使用     ゲーム、パズル     造形の楽しみ 作る、構成する     その他   ・移動に関すること      誘導訓練      室内移動      屋外移動(白杖)      交通機関の利用   ・情報収集に関すること      テープレコーダーの利用      デイジー図書の利用      点字      PC      LVエイドの利用   ・生活に関すること      身辺処理技術       基本動作  整容動作  身だしなみ       身の回り品の整理・管理       喫食・喫煙動作       盲用具・日常生活用具の使用      家庭生活技術       調理       衣類の管理  裁縫  編み物等       住まいの清掃・管理       家計管理      社会生活技術       金銭管理       電話操作       外出・外食 買物       社会資源の活用  情報収集   ・レクリエーション STT(サウンドテーブルテニス、旧盲人卓球) フライングディスク      ティーバッティング      タンデム自転車 などである。  これらの訓練をする際に必要となるいくつかの配慮について述べる。   ・体力に対する配慮:少しずつ運動系の課題を増やす等 ※ 低血糖時の対応   ・知覚マヒに対する配慮  知覚マヒのある場合が多く、触覚を通して情報を得る際に障害があることが多い   ・記憶等の障害に対する配慮?  記憶の障害がある?学習の障害? 4−3 生活設計上の配慮  生活の前提となる経済的な面を整理することは基本的な作業である。生活に必要な収入を確認し、場合によっては年金・生活保護の申請をする等が必要となる。また、糖尿病の治療や眼科的な管理のために必要となる医療機関の確保・紹介も忘れてはならない。  一人で移動できない場合は誘導が必要となる。また、一人で調理ができない、買い物ができない場合でも単身で生活するためには様々な手段がある。これらを可能にする、生存上必要なサービスをどのように組み合わせて使うか考え、具体的な組み合わせの設定をすることもやらなければならない作業である。  元の職場に復帰し働く、あるいは新しく就職し働く、盲学校等に進学しあはきの資格を取り働くと、いった形で社会復帰するというのが過去の古典的なリハの目的、ないし道筋であると考えられてきた。しかし、現実には職業には就かない形で社会に戻る、あるいは暮らし続けるという選択肢もある。  退所後、訓練終了後の進路を分類すると、職業・職業前・無職というようになる。この中で無職は、家庭あるいは単身で暮らす(家庭復帰というような言い方をすることが多い)ことを意味している。さらに、老人ホームや福祉関連施設・病院等の保護的環境下で暮らすことも含んでいる。  職業に就かず、いわゆる経済的な自立をしていなくても、日常の生活の中で生き甲斐を見つけること、QOL生活の質を高めることは重要である。障害を持つことで退職したり、家庭内での役割分担を減らす等、一旦狭くなった生活の範囲を回復し、広げていくことは視覚障害リハビリテーションの大きな目的である。  社会的な活動に参加することで、利用者の帰属する集団を回復すること、あるいは増やしていくことを考える必要がある。 配慮すべきこと  ・必要な収入の確認 年金・生活保護の申請等  ・必要な医療機関の確保  ・生存上必要なサービスの具体的組み合わせの設定等  ・利用可能な社会資源の紹介 5.まとめ  七沢ライトホームにおける糖尿病網膜症利用者をみると、無職で、単身者、生活保護受給者が多い。また、他の疾患ないし障害を併せ持つ場合も多く、対応の難しい疾患といえる。そのため自立生活へのハードルは高く、以前は保護的な環境下での生活以外の選択肢が無い場合もあった。しかし、近年、インシュリンの自己注射が可能となったことや、社会資源が整ったため単身生活できる方が増えた。今後は退所後の単身生活をサポートする体制が必要である。食事の管理、医療的管理、薬やインシュリンの管理等、単身生活で完全に自立することが困難な場面はどうしても残る。体調を維持し、自立した生活を送るための支援が必要である。 【パネルディスカッション】 パネルディスカッション 多面的に考える糖尿病網膜症の就労への影響と対処法 司会:筑波技術大学 長岡英司  このパネルディスカッションの司会を、セミナー実行委員の一人であることから引き受けた。今回は、糖尿病を持って働く3人の視覚障害者がパネリストを務めてくださる。糖尿病、全盲、一般就労という共通点のあるお三方だが、病気と障害、職業についての経過はそれぞれ全く異なる。その要点を50音順(前半部分での発表の順)に記させていただく。  @木原暁子さん  若年性糖尿病 → 就職後に眼科手術の影響で一気に失明 → 失明後に転職  A戸塚辰永さん  幼少期に事故で失明 → 就職以前に糖尿病発病 → 就職  B向田雅哉さん  就職 → 糖尿病発病 → 弱視の時期を経て失明 → 職場復帰  また、3人の勤務先は、民間企業、社会福祉法人、公共機関と異なる。糖尿病の現在の症状や対処の仕方もそれぞれに違う。だが、自力で通勤をし、PCを駆使して職務を遂行する、日々の前向きな姿勢は共通する。そして、職場の上司や同僚との良好で円滑な関係が見えてくる。ここにいたるまでの過程、すなわち、進路相談やリハビリテーション訓練、自助努力や周囲との調整などの実際や重要性を、各自の発表から読み取っていただきたい。  一方、後半部分では、パネリストとフロアとの間で、糖尿病と視覚障害に起因する(または関連する)次の点について、時間の許す範囲で討議する。  a)就職・復職に際しての影響と対策  b)職務への影響と対策  c)職業生活への影響と必要な配慮  d)職場や関係機関への要望  e)就労を実現し発展的に継続するための要点  これらについての情報交換や意見交換を通じて、この病気とうまく共存しながら視覚障害者として働き続けることの可能性を拡大するための手立てを探りたい。 あせらず、気負わず、あきらめず マイクロソフト株式会社 人事本部採用グループ 木原暁子 主な経歴 1980年11月 若年性(1型)糖尿病発症 1996年 4月 栄養士として製薬会社の健康食品販売、相談窓口対応業務を行う       7月 家族の看病のため退社 1999年 9月 派遣会社の社員として入社 2001年 7月 営業所所長を拝任 2003年 2月 右目手術にて全盲となる 2003年 5月 退院後、障害手帳取得 東京都盲人福祉協会にて、生活訓練(歩行、点字など)を在宅受講。同時に就職活動も行う 2004年 1月 休職期間満了により退職 2004年    左足裏大やけどにより入院(8か月間) 2005年 8月 東京都視覚障害者生活支援センターに入所し、生活訓練を受講 2006年 4月 日本盲人職能開発センターに入校 2006年 5月 マイクロソフト面接 2006年 7月 入社          現在に至る 1.はじめに  私は2003年に手術をきっかけに全盲となった、中途視覚障碍者です。 手術直前までは派遣会社の営業所長として働いていましたが、全盲での復職は厳しく退職に至りました。しかし「仕事がしたい!」という強い気持ちから、復職にむけてさまざまなことに取り組みました。  まずは右目手術後病院のソーシャルワーカーに相談し、東京都盲人福祉協会をご紹介頂き、専門の方々に歩行や復職について相談。その時、職能開発センターのことやタートルの会(現NPO法人タートル)なども教えて頂き、就職への希望が見えてきました。  しかし気持ちばかりが前のめりで焦っていたのか、全盲になってわずか2カ月あまりで就職活動を行った覚えがあります。  当時は全盲者の就労はとても厳しく、現実に打ちのめされました。100社程の合同面談会に参加したのですが、面接で聞かれる質問は「トイレに行けますか?」「昼食はひとりで食べられますか?」というもので、全盲者はひとりで何もできないという固定観念からくるものでした。また、私自身も仕事がしたいという漠然とした気持ちはありましたが、業種にこだわりもなくやりたいことも明確ではありませんでした。  その気持ちを変えたのは、火傷による8カ月の入院です。就職はゴールではなくスタート地点。今までの自分の経歴から、自分ができることやりたいことをよく考えたところ、人材派遣会社で3000名程の面接経験を生かして、採用業務がしたい!という結果にたどり着きました。そこで退院後から就職活動を始めるまでの大枠の計画を立てました。 2.復職に向けた計画 @社会復帰のための生活訓練(歩行、点字や料理、簡単なPC使用方法)を受講。  全盲になってすぐから火傷を負うまでの1年程も生活訓練を受けていましたが、入院による体力の低下の取り戻しと8か月のBLANKによる感覚取り戻しの総復習として行うことにしました。 APC訓練のため職能開発センターに入校  入校後は一般事務のための講義を受けつつ就職活動を行い、現在の職場マイクロソフト株式会社に入社しました。  以前からPCは使用していましたが、専門のトレーニングによるさらなるスキルアップを目指していたこと、面接での障碍表現方法も習得したいと考えて職能開発センターに入校した結果、ワードやエクセルの一般事務のための講義は業務にすぐ活用されましたし、就職面談講義は障碍を面接官にどう表現するかの練習になり、現在の職場就職のきっかけとなりました。 B就職活動に向けて  就職活動の方向性が定まっていたため、職務経歴書や自己紹介文は人材派遣会社での業務経歴をクローズアップし、歩行、音声ソフトの件なども入れてできるだけ箇条書きにしました。これは全盲になった直後の就職活動時に作成したものから変化しています。 3.現在  そんな私も2006年7月マイクロソフト株式会社に入社し、今年で早3年が過ぎましたが、私の業務は日々変化と成長をし続けています。 @ 業務 部分的業務→全体的マネージメント業務に変化  いくつかの業務のひとつである障碍者採用は、入社1年目は履歴書のscreeningと電話 面接を担当していましたが、現在は採用計画から広告、イベントや面接の実施に至るまでをチームリーダーとして行うまでとなりました。  これも周囲の理解と支援を頂いているからこそだと感謝しています。 A 周囲の理解・支援 自らの情報発信  その理解を得るために私が工夫しているひとつが、人事社員に「若年成糖尿病、低血糖について」の詳細をMALEでお知らせしていることです。  もちろん自ら体調管理を行っていますが、周囲の何気ない気遣いも感じられる毎日です。 4.おわりに  最後になりましたが、私と同じ病気の方や障碍をお持ちの方にお伝えしたいことは、やりたい!という強い意志を持つことと多くの人と出会ってほしいということです。  多くの人に出会い、情報を知り、創意工夫の気持ちを持ってTryしてほしいと願っています。  そして必要があれば私に声を掛けてください。私自身も多くの人に支えられてここまできたので、私も微力ながらお力になれればうれしいと思っています。 頑張り過ぎないことが一番 (社福)東京ヘレン・ケラー協会 点字出版所 戸塚辰永 1.全盲になる  私は、全盲で2型糖尿病患者です。未熟児で産まれたこともあって、視力は左目が光覚、右目が0.2でした。ところが1974年、小学校4年生の4月に、ソフト・ボールの練習中に近所の子供が石を故意に投げて、運悪く右目に当たり網膜剥離で失明しました。その後、盲学校に転校し、点字、歩行訓練等を受けました。いきなり全盲になるという経験は、精神的にも辛いことでした。でも、子供だったので障害の受容がわりとすんなりとできたような気がします。 2.糖尿病発症  糖尿病の発症は、1995年でした。当時、私は大学院で現代ドイツ史を研究していました。テーマは、ナチス・ドイツ統治下での視覚障害者の迫害で、当時の資料を基に修士論文を書くというものでした。修士論文の資料集め等も兼ねて友人が暮らすドイツ・ブレーメンの大学に1年間留学しました。ブレーメンでは論文を執筆するつもりでしたが、留学直後に友人が膵臓がんに倒れ、看病に明け暮れていました。結局、同居人は留学中に亡くなりました。そんなこともあって、帰国直後の1995年10月に高血糖症状が出て、近所の医院で糖尿病だと診断されました。それ以来2002年11月まで経口薬を用いて、2002年12月から現在に至るまでインスリン注射と経口薬の併用で治療しています。  思い返すと、私は大学院に入学した当初から得体の知れない体のだるさ、集中力のなさを感じ、思うように研究が進まない状況が続いていました。担当教授からも、怠慢を強く叱責されるほどでした。体の不調を医学部の友人に相談したところ、「それは糖尿病じゃない?」と言われて、大学病院で検査を受けました。しかし、糖負荷試験をせずに空腹時血糖値のみを計ったためか、正常と判断されてしまいました。糖尿病と診断されて、片っ端から糖尿病に関する本を読み漁って、「体のだるさややる気のなさの原因は糖尿病の症状であったのでは」と感じました。糖尿病のことを知って、論文を書かねばいけないというプレッシャーやドイツでの友人の看病がストレスとなって糖尿病を発症させたのだと思いました。 3.糖尿病の治療そして就職  糖尿病の治療を開始すると、それまでのだるさや気力のなさはうそのように消え、体調も良くなりました。大学院には多少未練もありましたが、退学しました。そして、1997年に盲学校の理療科に入学し、鍼灸マッサージ免許を取得しました。  2000年3月に卒業したのですが、1年間就職するまでに時間がかかりました。というのも、国家試験の直前に目を負傷し、治療に数ヶ月かかったためです。また、進路担当の教員は、私が糖尿病のため、治療院やヘルス・キーパーではフルタイムの仕事は無理だという意見でした。面接に行くと、施術所の経営者も、「施術中に低血糖を起こして倒れたら」と心配する人も中にはいました。  その結果、体の負担が少ないということから特別養護老人ホームでの機能訓練指導員として就職しました。お年寄りとも、職員とも人間関係も良く、仕事も充実していました。認知症の方や身寄りのない方や私と同じ目の見えないお年寄りと話す機会が与えられたことは、今の記者の仕事をする上で、掛け替えのない財産になりました。しかし、介護保険の導入直後で施設の経営状態が悪かったようで、障害者雇用期間が終了するころからリストラ攻撃に毎日遭い、私は糖尿病を悪化させて40日間入院しました。それ以来インスリンを打つ生活になりました。 4.転職  入院中に、偶然転職の話があり、現在の仕事に就きました。  私は、2003年から、東京ヘレン・ケラー協会点字出版所で点字月刊誌『点字ジャーナル』の記者、編集者、点字校正者として勤務し、7年目になります。  マッサージの仕事からデスク・ワークの仕事となり、当初1、2年間は原稿を書くという作業にとても苦労しました。就職して1ヶ月後には、上司に退職の相談をしたほどです。上司はそのとき引き止めてくださり、話を聞いてくださいました。自分の気持ちを率直に話したこともあり、そのことで気持ちが吹っ切れたのです。  記者の仕事には、ノート・パソコン、スクリーン・リーダー、点字ピンディスプレイ、ICレコーダーが必需品です。取材先には、晴眼者の同僚と行くことが原則ですが、歩きなれている場所であれば、一人で行きます。記者の仕事は、取材先で取材内容をICレコーダーに録音したり、携帯用の点字電子メモ帳の「ブレイルメモ」にメモしたりします。そして、取材から戻ってメモや録音したものを頼りに原稿をパソコンで書いていきます。その際、墨字の資料を同僚に読んでもらったり、インターネットを使って調べ物をします。原稿の執筆者との連絡は、メールや電話を使っています。ほとんどの原稿は、漢字かな混じり文のテキストで受け取り、点訳ソフトで点字に変換します。ただ、点訳ソフトの点字には間違いがあるので、点字ピンディスプレイで確認し、校正し、原稿を編集して行きます。  職場には、私のほかに3人の視覚障害者が働いています。また、これまで多くの視覚障害者が点字出版所で働いてきました。そういうこともあって、私の職場の同僚や上司は、視覚障害者ができること、できないことを熟知しています。そのためか、墨字を読むこと以外、何でもできて当然という少々厳しいところもあります。  自分が糖尿病であることを、この仕事に就いた当初同僚に話しました。内容は、毎日インスリンを打っていること、低血糖の症状、その対処法についてです。しかし、近年では私が太ってきたため、もっぱら同僚の関心は、食事面の心配が多いようです。  今年(2009)4月からデスクの仕事を任されるようになり、ほとんど毎月1万字以上の原稿執筆、執筆依頼者との原稿のやり取り、点字広報の校正等、以前に増して忙しい日々を過ごしています。上司や同僚の助けもあって、何とかこなしています。 5.終わりに  糖尿病と診断されてから15年目を迎えました。この病気は、今の医学では完治しないものです。もしも私が100年以上前に産まれて糖尿病を発症していたならば、インスリンが発見されていなかったため、直ぐに死んでいたことでしょう。そう思うと、医学の進歩はすごいものだと感じます。ですから与えられた命は、大切にしなければいけないと思うのです。しかし、ついつい今日もビールを一杯飲んでしまいます。原稿の締め切りが近づくとストレスも溜まっていきます。食事や運動といった健康管理も重要なことですが、糖尿病と15年ともに生きてきて、ストレスをできるだけ溜めず、仕事をためず、悩みすぎずに暮らすことが一番だと感じています。これからも糖尿病と折り合いをつけて生きていきたいと思います。 コツコツと通勤し、コツコツと働く。 運輸安全委員会事務局横浜事務所 向田雅哉 1.はじめに  この度「2009全国ロービジョンセミナー」のパネルディスカッションのパネリストとしてお話をさせていただくことになりました、向田雅哉と申します。  ロービジョンセミナーにパネルディスカッションのパネリストとしてお招きいただいたことを光栄に思うとともに、わずかながらでもお役に立てればと思いお話しさせていただくことにいたしたしだいですが、ロービジョンセミナーのパネルディスカッションのパネリストのお話をいただけるとは思いがけないことでもあったので、緊張の思いもあり、上手にお話できるかどうか危ういのですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。 2.職業  私は国土交通省運輸安全委員会事務局参事官付の国土交通事務官で、横浜事務所に勤務しています。  私の職務は、文字起こしをしてパソコンで書類を作成しているのですが、詳しくは後ほど説明いたします。 3.発症から現在まで  私は糖尿病性網膜症で、現在の視力は左右とも指数弁です。  平成12年11月に左目が硝子体出血、翌年平成13年2月に右目も硝子体出血し、視力が著しく低下し、増殖糖尿病網膜症と診断されました。  その後2ヶ月半の入院生活、1年8ヶ月の病気休職を経て、平成15年3月に職場復帰し、職場の上司や先輩、同僚のサポートをいただいて、ルーペを使って職務に従事していたのですが、その年の年末に右眼の眼圧が上昇し、緑内障を併発しました。  この頃からこれまでに使っていたルーペでは文字が読めなくなり、使っているルーペの倍率が徐々に大きくなっていき、また1人で外を歩くことに不安を感じ、緑内障の手術を2度受けたものの、見えていた右目の視力も指数弁になっていました。  手術後も職場へ通っていたものの、まず自分自身が「見えない。」と思うのが先で、その次に「何でだろう?」と自問自答を試みて、情報も全く得られず、結局はその繰り返しが続き、どんどん考え込むという、今思うと恐ろしい日々が続きました。  こうした悶々とした日々が1年以上続き、何とか現状を打破したい、そして今の仕事をし続けたいという思いが一層強くなり、視覚障害者訓練施設を見学に行ったりして情報を集め、その結果を当時の上司に報告しました。  その結果、埼玉県所沢市の国立障害者リハビリテーションセンターロービジョンクリニックに入院しての歩行訓練、国立函館視力障害センターに入所しての生活訓練、日本盲人職能開発センターに通所しての音声パソコンの基本操作等の訓練、川崎市盲人図書館に通所しての歩行訓練を受けることができ、平成19年4月16日に横浜地方海難審判庁書記課事件係に職場復帰、平成21年4月1日に現在の職場である運輸安全委員会事務局横浜事務所へ異動となりました。 4.通勤  私の自宅は川崎市、勤務地はJR桜木町駅から徒歩10分あまりの場所です。  自宅から歩いてすぐのバス停からバスに乗り、JR川崎駅前へ行きます。所要時間は5分から10分です。  バスを降りたら、バスターミナルの階段を下りて、地下街を通り、JR川崎駅へ行きます。  途中2回階段を上り、駅構内のコンコースでは誘導ブロックをなぞって歩きます。  コンコースは通勤客や通学客がたくさん歩いているので、白杖を引っかけないように白杖は大きく振らず、鉛筆を握るようにして握り、足元の誘導ブロックをなぞって歩きます。  改札口を入った後も、足元の誘導ブロックをなぞってホームへの階段へ行き、ホームに下ります。  ところで、私は電車に乗る位置をいつも決めており、川崎駅では横浜寄りから5両目の2番目のドアに乗るようにしています。  その位置だと川崎駅でも桜木町駅でも階段のすぐそばなので、ホームの移動もしなくて済みます。  桜木町駅に着いたら、それまでと同じように足元の誘導ブロックをなぞって改札口を出て、職場に向かいます。  桜木町駅前には横断歩道があるのですが、歩道橋もあるので、いつも歩道橋を渡ります。  その後もう1ヶ所横断歩道があるのですが、音声信号機なので、その音を頼りに青信号の途中では渡らず、青信号に変わった直後に渡るようにしています。  これは青信号の途中だと、いつ点滅するか分からないからです。  横断歩道を渡ったら、車道沿いの歩道を車の走行音に平行になるように方向を取って、歩いていくと職場に到着します。  私の職場での業務時間は午前8時30分から午後5時15分までなのですが、私はゆとりを持って午前8時過ぎに職場に入るようにしています。  私は通勤途中、ホームは移動しないようにしたり、歩道橋を使うようにしたり、横断歩道は青信号の途中で渡らないようにしたり、時間にゆとりを持つようにしたりと、安全第一に通勤することを心がけています。  業務を終えて帰路に就く時も、通勤時と同じ経路で帰路に就き、この通勤経路は行き帰りとも川崎市盲人図書館で歩行訓練をしていただきました。 5.事務所の環境  私の職場は事故調査調整官室で、ドアが2つあり、1つは業務時間内は開放されていて、もう1つのドアは「締切り」と書かれた紙が貼られ、常時締切りになっていたのですが、私が入口から机まで、より近く、より障害物がないようにと経路を確保するために、「締切り」の紙が貼られているものの、施錠を解き、ドアを開けて出入りできるようにしてくれました。  そのドアから私の机までは3、4メートルばかりで、6人の職員の島の中の一番手前にしてくれました。  また、入口から私の机までの途中、天井に換気口があり、その換気口から出る換気音を頼りに歩く方向取りをしたり、右側にはファクシミリとスキャナが一体となったコピー機があり、その印刷音を頼りに歩く方向取りをしています。 6.周辺機器の環境  私の机は両側に3段の引出しがあるもので、机の上には職場のLANに接続されたノートパソコンとOCRソフトがインストールされたノートパソコンの合わせて2台が置かれ、普段はLANに接続されているノートパソコンに外付けキーボードを接続して、パソコン作業をしています。  LANに接続されたノートパソコンには、XPリーダーとJAWS7.1をインストールし、後でも触れるかと思いますが、メモ帳やWord、Excelを操作する時はXPリーダーを使い、職場のグループウェアはNotesなのですが、Notesメールの送受信やAccessデータを読む時などはJAWS7.1を使っています。  XPリーダーとJAWS7.1は、職場復帰の際、職場で準備してくれました。  なお、OCRソフトを使うのに必要なスキャナは職場で使っていないものを割り当ててくれ、OCRソフトは職場で購入してくれたものですが、職場復帰当初職場のノートパソコンにOCRソフトのインストールを試みたものの、うまく行かなかったため、上司の許可を得て、自分のノートパソコンを持ち込んでインストールして使っています。 7.職務  私の職務は、地方事故調査官が船舶事故等を調査する際に、事故関係者から得られた口述をICレコーダーで登録した音声データをフリーウェアの音声再生ソフトを用いて文字起こしをしながら、「口述調査書」という書類の作成に従事しております。  作成にあたっては、地方事故調査官から上司経由で書類作成の指示をいただき、共有フォルダに音声データが入っているので、それを音声再生ソフトとメモ帳を開き、キーボード操作で音声データを再生、停止させながら、メモ帳に文字を入力していきます。  この時、地方事故調査官と事故関係者のやり取りは話し言葉で、この話し言葉を書き言葉に頭の中で変換しながら文字入力をしていく作業をするのですが、この作業は供述の正確性を失うことなく、かつペーパーにした後、読む人が読みやすいような文面にしないといけないと考えているので、気を使って作業をしています。  また供述の文字起こし作業をしている中で、語尾が濁って聞き取りにくい時は、何度か聞き返して文字起こしをすることもありますし、また方言の場合は、正確性を損なわないように標準語に文字起こししますが、どうしても意味が分からない場合は、そのままの方言で文字入力しています。  たまに地名人名などの固有名詞で、音声データを聞いただけでは漢字表記が分からないことがあるのですが、その時は同僚や上司に記録を見てもらって、漢字表記を教えてもらうこともあります。  また船舶用語などの専門用語を使うので、上司からメールでいただいた用語集のデータも開いて、用語集を当たりながら文字入力をしています。  他にも地名や人名などの固有名詞と船舶用語や海事用語などで1回で漢字変換ができない文字もしばしばあり、できる限り気が付いた段階で、Wordの日本語入力の単語登録機能を用いて単語登録をして1回で漢字変換ができるように努めています。  こうして文字起こしをしての文字入力を終えたら、メモ帳の文字入力したものを全て選択してコピーしてから、メモ帳を閉じます。  続いて「口述調査書」という書式がWord文書であるので、そのファイルを開き、メモ帳で入力した文字を貼り付けます。  続いて質問部分と回答部分を見た目で分かりやすくするため、インデント・タブで回答部分を左端から2字分右に寄せます。  たまに距離や長さなどの数字が2行にまたがることがあるのですが、それだと読みにくいので、均等割付で数字が2行にまたがらないようにもします。  これは、赴任当初体裁の整った書類を作成するために、私は音声を聞きながらショートカットキーなどで操作し、上司に体裁が整っているか画面を見てもらいました。  こうして最後に体裁がちゃんと整っているかを音声でチェックしたのち、完成した書類を添付ファイルで上司にメール送信します。 8.職場からサポートしていただいていること。 (1) レイアウトが変更されたスペースのオリエンテーション (2) 手引き (3) 活字文書の要点の読み上げ (4) パソコントラブルの対応 (5) 事務所が私1人になる場合は、最後に出る人が声をかけてくれる。 (6) その他 9.最後に  このロービジョンセミナーには4年前から参加させていただき、講演を拝聴させていただくことで自分自身の学習にもさせていただいていました。また年単位で自分自身の状況の改善等の変化を知る道標にもさせていただいたこともあり、自身にとって多大な影響を受けましたので、こうしてお話できることを光栄に思いつつ、感謝の思いでお話させていただきました。  果たして皆様のお役に立てたのかどうかとは思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。 【授業内容デモンストレーション】 「日本盲人職能開発センター」 [授業内容デモンストレーション] 日本盲人職能開発センター「事務処理科」 1.視覚障害者の就労  当センターの「事務処理科」は、視覚障害者に一般企業へ就職、継続就労するために必要なパソコンと障害補償機器の技術を教授することを目的にして、平成6年にスタートしました。以後、障害補償技術の進歩により、視覚障害者がコミュニケーションとデータ処理能力を発揮し、一般企業での就労機会が拡大しました。  視覚障害者を含め、就労に際しては企業のIT環境を利用できるコンピュータ能力、関係部署などへの訪問できる移動能力、そして他の社員とコミュニケーションを図る協調性などが求められます。「こうしてもらえれば視覚障害者でもできる」ということを的確に伝え、一人でも多くの方が就労に結びつけばと思います。 2.視覚障害者の事務職訓練「事務処理科」 開始:平成6年10月 期間:1年、6ヶ月、3ヶ月の各コース 対 象 者:身体障害者手帳を有する方で定員は10名 運営費用:高齢・障害者雇用支援機構および東京都職業訓練委託費 機材:パソコン、画面読み上げソフト、拡大読書器、点字ディスプレイ、ネットワークシステムなど 教科:就職指導(筆記試験対策含)、社会経済、簿記、社会保険、マーケティング、福祉住環境、ビジネス実務などの講義。 実技: @指導実習  ミーティング、企画書作成、リサ―チ、テキスト作成、リハーサル、指導実習、反省会、報告書作成の一連の作業を行うことで企画力・提案力などを身につけることを目指します。 A修了研究  日頃、疑問に思っていることをテーマにして、文献を調べるとともにアンケート調査などを行い、論文形式にまとめて発表をします。 指導:職員3名、講師12名、その他ボランティアなど 修了実績:134名(平成6年度〜21年3月)       就職70名 継続就労43名 自営1名 結婚4名      学校8名 その他8名(全盲:51名 弱視:83名)      ※修了後に再度受講された方は実績に含まれません。 -------- ここから表 過去3年の実績 平成18年度 (OA実務科) 性別 年齢 等級 勤務先等 女 30代 1級 授産 女 30代 1級 IT 女 30代 1級 化粧品 男 30代 1級 その他 男 30代 4級 IT (事務処理科) 性別 年齢 等級 勤務先等 男 30代 2級 公務員 女 30代 1級 商社 男 30代 1級 進学 女 30代 2級 商社 男 50代 3級 不動産 男 40代 3級 製薬 女 20代 1級 学校 男 20代 2級 食品 男 30代 1級 公務員 就職4名 復職・継続雇用7名 進学1名 授産1名 その他1名 計14名 平成19年度 (OA実務科) 性別 年齢 等級 勤務先等 男 30代 2級 製薬 女 20代 1級 授産 女 30代 1級 ヘルスキーパー 女 20代 1級 IT 男 20代 2級 IT (事務処理科) 性別 年齢 等級 勤務先等 女 30代 2級 生命保険 女 40代 2級 信販会社 男 50代 2級 商社 女 30代 5級 公務員 男 30代 1級 公務員 男 30代 2級 経営・企画 男 30代 2級 授産 就職9名 復職1名 授産2名 計12名 平成20年度 (OA実務科) 性別 年齢 等級 勤務先等 女 30代 1級 小売販売 女 30代 1級 IT 女 40代 2級 外資 男 20代 1級 派遣業 女 20代 1級 IT (事務処理科) 性別 年齢 等級 勤務先等 男 40代 2級 電子メーカー 女 40代 1級 その他 女 50代 2級 医療 女 30代 5級 公務員 女 30代 2級 保険 男 40代 1級 通信 女 40代 2級 美容 男 40代 2級 公務員 女 30代 1級 ヘルスキーパー 男 50代 2級 ヘルスキーパー 女 20代 1級 公務員 女 30代 1級 ヘルスキーパー 就職10名 復職1名 その他1名 継続雇用5名 計17名 ※30代公務員の方は、平成19年度に修了後、引き続き受講。 -------- 表ここまで 3.パソコン実技 (1)パソコンスキル スクリーンリーダーを利用して各種アプリケーションソフトを活用します。 ・Windows  メニューやショートカットキーなどによる操作、ファイル管理、ユーザー補助等の利用、システム環境の理解 ・スクリーンリーダー  主にXP-ReaderもしくはFocusTalkを利用、ExcelやPowerPoint等には必要に応じてJAWSを利用 ・画面拡大ソフト  ZoomTextを利用し、倍率やウインドウのスタイル、マウスポインタ等を個々の状態に応じてカスタマイズ ・Word  各種メニューの理解、表を含むビジネス文書、Excelなどの外部データを利用した差込印刷など ・Excel  各種関数(LOOKUPなど、ネスト)の活用、グラフ作成、ピボットテーブルなど  (IF文、検索、データベース関数が使え、例えば人事のデータや財務管理ができる能力を付けます。) ・Access  テーブル、クエリ、リレーションシップの理解、特にクエリの活用 ・PowerPoint  タイトル、本文やオブジェクトの挿入、レイアウトを整える (2)技術目標 当センターでは、日本商工会議所PC検定(文書処理)3級を実施しています。  また、障害者技能競技大会(アビリンピック)東京大会へのエントリーを行い、Excelによるデータ処理能力のレベル向上にも努めています。 4.就労支援と技術 (1)企業が求めるコミュニケーションとパソコンスキル  視覚障害者を事務職として雇用しているある半導体メーカーでは、企業が求めるパソコンスキルを次のように挙げています。  Word…図形、表を含むビジネス文書作成  Excel…関数を含む表作成  PowerPoint…図形、表を含むスライドショーの作成とアニメーション設定  Access…クエリを含むデータベースの作成  ネットワーク…メール、掲示板、社内の評価システム、スケジュール管理 (2)職場実習の実施  職場実習は、企業にとっては視覚障害者の業務の検討が可能となり、パソコンや補償機器の理解をする期間となります。障害者にとっては職場環境や扱うデータを知り、必要とされるスキルを理解することや、通勤などを体験することができます。訓練機関と連携した実習は、補償機器の調達が容易、企業が必要とするスキルを対象者の訓練計画に盛り込むことで、採用後の支援などのメリットがあります。 (3)現地面接会の実施  労働局やハローワークより紹介を受けた企業が、訓練を見学することでスキルが確認できるとともに、企業が求める人材像とマッチする方がいる場合は、即センター所内で面接を実施するもので、平成19年より行い、これまでに15社が参加され、そのうち7社(うち1名は2社より内定をいただく)から内定をいただき、新規で採用されました。 (4)視覚障害者の就労 @採用担当者は、各部門へ働きかけて業務の洗い出し、障害者雇用に対する社内の意識の明確化に努めます。障害者の採用は障害の特性や程度、社会性、技能を含めて可能性を評価します。 A視覚障害者の多くは、ヘルスキーパーとしてマッサージルームに、または事務職として既存の組織内に配置されています。 B企業は、障害者の採用に際しても人事考課、業務の拡大、社内外研修、昇給・昇進など長期間の就労に応じられるキャリアプランが必要です。 5.おわりに  近年、紙ベースだった情報が電子データ化されたことにより、視覚障害者にとって情報障害がなくなりつつある、といわれています。しかし、社内のホームページや伝達事項、あるいは各種ビジネスフォームでアクセスできないものがあることも事実です。この問題の解決には、私たち「視覚障害情報機器アクセス」に携わる者たちの開発、努力はもとより、視覚障害者を採用した社内の方々の理解と協力を得ることも必要といえます。  また、障害が進行したような場合には職務の維持・職種転換のために、障害者の現状に応じた研修を受けることができるようにするなど、雇用(継続就労)に対する一貫したサポート体制の充実が望まれます。  企業の広範なIT利用に対して、障害者職業能力開発校(当センター)などの機材設備の拡充、常にカリキュラムを見直していく姿勢、そして関係機関との連携を図るなど、より一層柔軟な対応が必要と思われます。 編集後記  本セミナーは全国ロービジョンセミナーとして8年目を迎えることとなりました。  昨年の編集後記では、「疾患別のテーマの立て方は、実行委員会での方向性に基づくもので、今後数年はこの方向で開催していきたいと存じます」と書かせていただきました。  第8回を迎えた本セミナーは、外部委員を入れた実行委員会を3回ほど開催し、視覚障害の疾患の中で大きな割合を占めています糖尿病網膜症を取り上げ、「多面的に考える、糖尿病網膜症の就労への影響と対処法」をテーマに選びました。  午前は医学的立場、生活訓練の立場からの基調講演、昼休みには職能訓練デモンストレーション、午後は復職と新規採用の当事者のパネルディスカッション、第二会場ではロービジョン機器の展示以外に関連団体や施設・学校案内のコーナーを設けました。  私ども日本盲人職能開発センターは実践をつうじて、視覚障害者の就労先の開拓や就労後の継続支援の重要性を承知しております。  今回の企画はいかがだったでしょうか。  今後、視覚障害者を雇用しようとされている企業、またこれから企業に就労しようとしている視覚障害者の方に少しでも役立ちましたら幸いです。 平成21年7月25日  日本盲人職能開発センター 施設長 杉江 勝憲