【今月のトピック】    診療科リレー解説
第25回 女性の高血圧

 一般的に女性の血圧は同年齢の男性に比べて5-10 mmHg低いと推定されています。第五次循環器疾患基礎調査(2000年厚生労働省)によると血圧測定を受けた5618人(年齢30-75歳)の血圧平均値は男性138.3/83.1mmHg, 女性132.8/78.8mmHgで, 男性の血圧は女性に比べて5.5/4.3mmHg高いことが観察されています。同様な成績がアメリカでも報告されています。1988年から1991年に行われたNHANES(国立健康栄養調査)Vでは18-79歳の8892人の血圧測定値は, 男性126/76mmHg, 女性119/71mmHgで男性の血圧は女性に比べて7/5mmHg高いことが示されています。両報告とも, 血圧の男女差は50歳以降には減少し, 70歳以降では消失しています。女性では35歳ころまでは血圧が正常あるいは低血圧とされていても, 更年期を境として血圧が急に上昇あるいは高血圧と診断されることは少なくありません。
 図は第五次循環器疾患基礎調査による高血圧の頻度を各年齢で男女別に示したものです。

30-40歳台では高血圧の頻度は圧倒的に男性に多いのですが, 女性では50歳以降(閉経以降)から増え始めて, 70歳以降では男女比はほぼ同数になることが分かります。更年期女性で高血圧が増加する機序は明らかでありませんが, 体重の増加, エストロゲンをはじめとする女性ホルモンの変化, 精神面の不安定さによりしばしば血圧が上下し, 降圧薬治療が十分に行われにくいなどが考えられます。しかし, 外来血圧と家庭血圧の差, 高血圧合併症との関係を男女別に検討した報告はありませんので私の経験した症例を検討した成績を示して」参考にしていただきたいと思います。一年以上降圧薬を変更せずに治療している高血圧患者685人(男:447, 女:238)で3ヶ月間外来血圧と家庭血圧を記録し, 心エコー検査による心肥大の程度と尿蛋白排泄量を高血圧性心,腎合併症の指標として評価しました(表)。

 女性で若干年齢が高い傾向が見られましたが統計学的に有意な差ではありません。体格指数(BMI)は男女で差はなく肥満の関与は否定的です。男女差が認められたのは外来血圧収縮期血圧で, 女性の外来血圧は男性に比べ平均で5.4mmHg高く, 日本や米国の健康調査の結果に反する傾向がみられました。これは今回対象としたのは降圧薬長期服用患者であり, 日米健康調査は一般住民を対象としており, 正常血圧者と高血圧者をまとめて解析していることによる差と考えられます。家庭血圧では朝, 夜の血圧値に男女差が認められません。さらに, 高血圧性心合併症の指標である左室心筋重量係数, 腎合併症の指標である尿蛋白排泄量にも差が認められませんでした。すなわち, 降圧薬長期治療高血圧患者では, 女性の外来血圧は男性に比して高いが, 家庭血圧による血圧コントロールに差はなく 高血圧性臓器障害の進展も降圧薬治療により男女でよく防止されていることが解ります。従来から, 女性では外来血圧が高いが, 家庭血圧は低い, いわゆる白衣現象の頻度が男性に比べ高いことが観察されています。白衣現象の強い患者さんで外来血圧が高いからといって, 他の降圧薬を追加したり, 降圧薬の用量を増やしたりするのは過度の降圧や副作用の出現頻度を増加させる可能性があり危険です。現在では, 外来血圧ではなく家庭血圧を基本として降圧薬の選択や増減を決定することが降圧薬治療の本流となっています。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2009年では, 外来血圧だけではなく家庭血圧の降圧目標値が設定されました。高血圧患者さんは家庭血圧測定を習慣として, 自分の血圧値を医者任せにせず自己管理する姿勢が必要と思います。