相談事例104の相談内容と回答(H13.8.1)

●相談文
 くも膜嚢胞の治療法について悩んでおり、ご相談する次第です。
 私は今、35歳です。平成2年に頭部の外傷をきっかけに左のこめかみ部に水が溜まっていると言われましたが、特に通院などは勧められませんでした。5年ほど前から左瞼が時々瞼下垂のようになりますが、さほど気になるものでもなく、3年くらい前から感じる左目の疲れは、眼科医師から乱視のせいだと言われてきました。現在の視力は右0.3、左1.0で右目は矯正しています。 昨年からかかっている眼科医師から、左目の動きが少し硬いと言われ、地元の医大での検査を勧められました。眼科のCT検査では分からず、形成に回り、形成から脳神経科に回されて、5月末にくも膜嚢胞と知りました。
 左こめかみ部が隆起しており、嚢胞の大きさはピンポン玉大です。一部骨が薄くなっており、嚢胞の一部が目の後ろまで達しているため、目の筋肉を圧迫しているらしいとのことで手術を勧められています。その後、眼科に再度相談したところでは、目に出ている症状については今すぐ手術する程ではないとの判断でした。  今月19日に再度これらの関係を調べる精密なMRI検査を予定しています。頭部の手術ということで、不安、恐怖心が強く、是非ほかの専門の先生のご意見も伺いたいと考えており、次の点についてご相談させていただきます。
先天的な嚢胞は無症状であれば、手術の必要はないと聞いていますが、今の症状からして、手術に踏み切るべき状況なのでしょうか。
嚢胞自体は、少なくとも平成2年の外傷受傷時の検査で見つかっていました。嚢胞が悪化、増大する要因にはどのようなものがあるのでしょうか。
もし、仮にこのまま放置した場合、悪化する可能性があるのでしょうか。・手術といってもいろいろな態様があるようですが、もし、私が手術を受ける場合、どのような手術が適当で、どのくらい時間がかかるのでしょうか。また、入院期間はどの程度になるのでしょうか。(私としては、できるだけ軽易な内視鏡による手術を希望するのですが。)
手術後、想定される後遺症、生活上の制約等はあるのでしょうか。
良きアドバイスがいただけましたら幸いです。よろしくお願いします。


●回答文
 くも膜嚢胞は胎児の時期から小児期の間に出来るようで、いちおう先天性となっています。多くは成人までに縮小するか消失しますが、御質問者のようにいつまでも残っている場合もあります。多くは無症状です。一頃、頭痛やてんかん発作の原因として挙げられましたが、証拠はありません。くも膜嚢胞の直上の頭蓋骨が外にはれていることがありますが、それは頭蓋骨が成長する乳幼児期に嚢胞があったことを示し、それによって頭蓋内容積を増やし、脳も圧迫されないで済んでいるのです。頭蓋骨の成長が止まった段階で下手に嚢胞を減らすと、頭蓋内容積が余り、余分なスペースに水腫や血腫が溜まり、悪さをすることもあります。したがって、くも膜嚢胞は放っておくのが一番よいのです。ただし、嚢胞内に出血を来したような場合は手術することがあります。また、特殊な場所にあって髄液流通を妨げていれば手術の必要が出てきます。手術をしても得られるものは少なく、むしろ後遺症、合併症に悩むことがあり、場合によっては、たとえば、シャント手術をした場合など、命に関わるような合併症が出ることもあります。
  くも膜嚢胞一般に言えることは、小生は以前から手術を出来るだけしない方でした。日本でもアメリカでも手術をする脳神経外科医はいます。しかし、以前ほど手術をしなくなったようです。 御質問のような眼の症状がくも膜嚢胞で起こるとは考えにくいところです。小生ならば、こうしたことでは手術をしません。したがって、どのような手術が適当とは答えられません。一般的に言えることは、内視鏡手術は開頭手術に較べて簡単ですが、より安全とは言えないでしょう。出血などが起こったときにはむしろ開頭手術のほうが安全です。軽便を選ぶか安全を選ぶか、と言うことにもなりましょう。 手術後はどうか、とは上に書いたことを参考にしてください。
 ただし、これは小生の私見であって、今かかっておられる病院の先生のお考えとは異なるようです。よく説明を受けて納得されればよいのではないでしょうか。