(腎臓内科編 第10話)
「日本人のコレステロールは上昇している」

 欧米では疫学的調査により血清コレステロールと冠動脈疾患 (coronary heart disease; CHD) リスクの間に強い関連性があることが確認されています。米国で1973年から1975年に35才から57才の成人男子35万人の血清総コレステロールを調査し, 5年間のCHD死亡率を検討したMultiple Risk Factor Intervention Trial (MRFIT)では, 総コレステロール200 mg/dlを基準にすると, 総コレステロール220 mg/dlではCHDリスクが1.5倍に, 240 mg/dlでは2倍に増加することが解かっています。日本でも総コレステロールとCHDリスクの関連を検討した前向き調査成績が報告されるようになり, 日本動脈硬化学会高脂血症ガイドライン検討委員会が日本での疫学研究をもとに, 総コレステロールとCHDリスクの関連を解析した成績でも, 総コレステロールが200 mg/dlを超えるとCHDリスクが急上昇することが観察されています。このカーブの傾きは欧米の疫学調査から得られたものと同じで, コレステロール上昇によるCHDのリスク増加は日本人と欧米人で差がないことが解りました(図-1)。

 日本の厚生省循環器疾患基礎調査, 米国の国民健康栄養調査 (NHANES) のデータから両国のコレステロール値の年次推移を比較した成績を図-2に示しました。米国では女性, 男性ともコレステロール値は低下し, 特に1980年から1990年にかけて10mg/dl低下しています。これに反し, 日本人のコレステロール値は1980年以降急激に高くなり, 1990年には日本人女性はアメリカ人女性より高いコレステロール値を示すようになりました。アメリカで1980年以降コレステロール値が著明に低下した理由は, 政府機関が前述のMRFIT研究やフラミンガム研究などで証明されたコレステロール上昇の危険性を国民に周知させ, 食事習慣改善の指導を行った結果と考えられます。

 日本でも高脂血症の危険性が認識され, 1997年に日本動脈硬化学会から高脂血症診療ガイドラインが発表され, 成人高脂血症の診断基準, 治療適応基準, 管理目標値などが提示されました(図-3)。総コレステロール≧220mg/dl, LDLコレステロール≧140mg/dl, HDLコレステロール<40mg/dl, トリグリセリド≧150mg/dlの場合は食事療法や薬物療法などの治療が必要と勧告しています。


(元NTT東日本関東病院腎臓内科部長池田寿雄)