(腎臓内科編 第7話)
「早朝高血圧の治療が大切である」

 家庭血圧測定や携帯型自動血圧計による自由行動下血圧測定法(ambulatory blood pressure monitoring; ABPM)が広く行われるようになり, 病院以外での血圧値に関する情報が得られるようになってきた。ABPMは日常行動による血圧変化や夜間睡眠中の血圧値が得られるなどの利点はあるが, 再現性が必ずしも良好でなく, 患者へのストレスが多いので, 日常臨床で繰り返し行える検査ではない。家庭血圧は正しく測定すれば, 安定した測定値が得られるので, 患者自身が自分の血圧値に対する認識が高くなり, 降圧薬のコンプライアンスが良好になる効果も期待できる。家庭血圧測定の高血圧診療での最大のメリットは, 早朝高血圧の診断が可能だという点にある。
 血圧は, 覚醒時に高く睡眠時には低下する日内変動を示すが, 高血圧患者では早朝起床後に急速に血圧が上昇する現象がみられる。起床後に血圧が上昇する機序は十分明らかではないが, 交感神経系の機能亢進や身体活動との関係が推定されている。
 心筋梗塞や脳卒中の発症は午前中に多く, そのピークが血圧上昇と心拍数増加の時間帯と一致することが報告され, 高血圧性血管合併症との関連性が注目されている。血圧と心拍の急激な上昇による心筋酸素需要の増加や血管緊張の亢進などが心血管事故の誘因と推定されている。
 図は長期降圧薬治療下にある高血圧患者571例の朝(起床後一時間以内, 降圧薬服用前に測定)と夕(就寝前に測定)の収縮期血圧の関係を示している。朝夕血圧とも135mmHg以上のコントロール不良群は126例, 22%, 両血圧値とも135mmHg未満であるコントロール良好群は332例, 59%である。夕血圧は135mmHg未満でコントロール良好だが朝血圧が135mmHg以上を示す早朝高血圧群は, 111例, 19%である。早朝高血圧群では, コントロール良好群に比べ, 心エコー検査で調べた心肥大の程度を示す指数, 左室心筋重量係数(LVMI)と蛋白尿が増加していた。早朝高血圧患者では, 高血圧性心血管合併症の程度がコントロール良好患者に比べ高度であり, コントロール不良患者と差がない。朝夕血圧圧とも135mmHg未満になるよう適切な降圧薬でコントロールすることが必要である。
(元NTT東日本関東病院腎臓内科部長池田寿雄)