(腎臓内科編 第5話) 「カルピスを飲むと血圧が下がると広告で見ましたが本当ですか」と患者さんから質問を受けました。 早速, 調べてみました。確かにありました。カルピス株式会社発行の「1日1本, 血圧が高めの方に, カルピス酸乳アミールS新登場!」というパンフレットを見つけました。 カルピスは脱脂した牛乳に乳酸菌と酵母を加え乳酸発酵させてできた発酵乳(カルピス酸乳)に, 砂糖を加えてさらに2次発酵をした後、砂糖・香料を加え加熱殺菌して作られます。 ちなみに, カルピスの名称の由来は, 創業者である三島海運氏(1878-1974)が, 牛乳から作られ, 日本人に不足しているカルシウムを豊富に含むことからカルシウムの「カル」と, 梵語で「この上もなくおいしい」という意味をあらわす「サルピス」をあわせて「カルピス」と命名したそうです。 血圧降下作用が認めれるのは、カルピスの素ともいえる中間産物であるカルピス酸乳です。学術論文としては, 1995年に遺伝的に高血圧を呈するネズミで, 1996年には高血圧患者でカルピス酸乳の血圧下降作用を観察した研究がありました。 ヒトでカルピス酸乳の降圧効果を検討した研究では, 高血圧患者30名を2群にわけ,1群にはカルピス酸乳を95ml, 2群には同量の発酵させない脱脂乳をそれぞれ8週間飲用させたところ, カルピス酸乳飲用群では, 収縮記血圧は14mmHg, 拡張期血圧は7mmHg低下したと報告されています。 カルピス酸乳には, 生体内で血圧上昇作用が最も高いアンジオテンシンを作る酵素(アンジオテンシン変換酵素)の働きを阻害する物質(ラクトトリペプチドといいます)を含んでいることが明らかとなっています。 アンジオテンシン変換酵素の働きを阻害する薬剤はアンジオテンシン変換酵素阻害薬の名で高血圧の治療薬として広く使用されています。 高血圧患者さんの約30%はこの薬で治療されていると思います。このタイプの薬は, 高血圧による心臓肥大や腎機能の障害を防止する作用があることが証明されている臨床的に利点のある血圧降下薬です。 唯一の欠点は, 約20%の人に頑固な咳, 痰を伴わない咳で乾性咳嗽といいます, が副作用として出現することです。アンジオテンシン変換酵素阻害薬がなぜ咳を誘発するかは十分あきらかではありませんが, 脳の咳中枢を刺激する作用が想定されています。 カルピス酸乳では咳の副作用は認められないと報告されていますので, 血圧は良く下がるけれども咳のためにアンジオテンシン変換酵素阻害薬を服用出来ない人には福音といえるかもしれません。 アミールSは, カルピス乳酸に糖アルコール(アルコールという名がついていますがアルコールと似た構造を持った糖分で酔っぱらうことはありません)で甘みを加え飲みやすくしたものですが, 砂糖を使用していないため1本当たり27カロリーと低カロリーです。アミールS 1本160 mlには, 前述のヒトの研究で用いたのとほぼ同量のラクトトリペプチドが含有されていますので, 1日1本の飲用で十分な降圧効果が得られることになります。 最後に一言。一般のカルピスは, カルピス酸乳に同量の砂糖を加え再発酵させて作ります。さらに, 5倍に薄めて飲用しますので, ラクトトリペプチドの量は約10倍に薄められている計算になります。 アミールSと同じ降圧効果を期待するなら毎日1リットル近い量を飲まなくてはならないことになりますので念のため。 |