(腎臓内科編 第1話)
「老年者高血圧の特徴」

 老年制高血圧には、成年期に発症した本態性高血圧患者が高齢化した場合と、老年期に初発る収縮期高血圧があります。

一般に血圧は、加齢とともに上昇しますが、拡張期血圧は70才以上でむしろ低下します。

この現象は、加齢により太い動脈(大動脈)の弾力性が減少し、伸展性が低下するためにおこります。

心臓が収縮すると一定の圧力で血液が大動脈に拍出(心拍出量)されますが、大動脈の伸展性が低下しているため、圧力が吸収されず血圧測定部の血管(前腕動脈)に伝達されるため、収縮期血圧は上昇します。

また、心臓が収縮する時に蓄えられる内の血液量が減少するために拡張期血圧は低下します。

収縮期血圧のみが高い高血圧(収縮期血圧160mmHg以上、拡張期血圧90mmHg未満)を収縮期高血圧と呼びますが、老年者ではこの収縮期高血圧の頻度が高くなります。老年者にみられる収縮期高血圧は、臓器への血流量を確保するための合目的な反応であり、血圧を下げると脳、心臓や腎臓などの主要臓器への血流量を減少させ危険であるとの考えもあります。

しかし、老年収縮期高血圧患者を対象とした研究から、少なくとも、180mmHg以上の収縮期高血圧を示す場合には、降圧薬を使って160mmHg未満に血圧をコントロールした方がよいと考えられています。

もう一つの老年制高血圧の特徴は、体位変換や食事により血圧下降(起立性低血圧と食後低血圧)が起こりやすいことです。

老年者では、血圧を一定に維持する神経機能(圧受容体反射)が低下するために、起立時に循環器系の反応が遅延し、血圧が下降します。

食事摂取時には、消化管から血管拡張物質が放出されるため、腹部内臓血管は拡張し、血流は増加し、全身の血管抵抗が減少します。

健常人では、心拍出量が増えたり、四肢の血管が収縮する代償反応がおこり、血圧は一定に維持されます。

老年者では、この代償機能が働きにくく血圧が下降します。食後に眠気、全身倦怠、腹部の熱感や不快感、めまい、立ちくらみなどの症状がみられます。

食事直後に急激な体位変換をおこなうと、起立性低血圧と食後低血圧の合併で、心筋梗塞や脳血管傷害を発症することがあります。やはり、食後には牛になることを恐れず一眠りするのも一法でしょう。

(NTT東日本関東病院腎臓内科部長池田寿雄)