「秋月りすは平成の長谷川町子である」

僕は幼少のみぎりより、この齢になっても漫画が好きで好きで好きで、
漫画喫茶にも行くし、コンビ二で立ち読みもするし、
それなりに好きな漫画を収集している。
ただし、コレクションは数千冊なのでたいした数ではない。
(やはり最低でも一万冊を超えてないとコレクターのはしくれにも
なれないと思う)。

そんな自分の本棚をつらつら見ていて気づいた。
僕に『好きな漫画』はあっても『好きな漫画家』というのが
ほとんどいないことにだ。ようするに「この漫画家の全作品を
持っているぞ」というような作家がたった数人しかいない、のである。

これは不思議なことで、というのが、小説家の場合だと
「この小説家の全作品を持っているぞ」
という作家は十数人もいるし、好きな作家の作品を
ほぼ全部集めようとするのは
コレクターとしての信条、そして快感でもある。

ところが、漫画家の場合だとなかなかそうはいかないのは、
やはり一線級の漫画の質をずっと維持しつづけるのは難しい、
ということが言えるのだろう。
ぱっと売れて、その作品だけは素晴らしいのだが、
それ以外の作品はしょーもない、
という漫画家は実に多い。一発屋は星の数ほどいるのだ。
まったく漫画家というのは『時分の花』の職業なのだなーとつくづく思う。

前置きが長くなってしまった。
さてその、僕が「ほぼ全作品を集めている」漫画家は三人いて、
一人目が荒木飛呂彦、二人目が西原理恵子、
三人目が今回とりあげる秋月りすである。
これは自分としてはかなり意外なことだった。
なんとなれば僕の専門のジャンルは少年誌と青年誌なので、
女性漫画家が二人も入っているのは
我ながら驚きであった(二人ともギャグ漫画家なのだが)。
しかも秋月りすの作品は、代表作である『OL進化論』(講談社)は
全巻、『かしましハウス』(竹書房)の全巻はもとより、
『ミドリさん』(竹書房)から『OLちんたらポンちゃん』(光文社)や
『奥様はインテリアデザイナー』(双葉社)まで集めている、
という具合である。あらあら、おれ、ほんとに好きなんだなー。

その理由はと言えば、秋月りすの漫画が、相当の水準で
おもしろさをキープしているからだ。
いわゆる「女の子を主人公にした四コマ漫画」でこのレベルに
達している人は他にいない。しかもよく読んでみると、
あけすけな下ネタや女性の観点からのエッチな話、
あるいは人間の皮肉な場面を(あのかわいい絵でごまかしながら)
鋭くえぐってもいて、観察眼の確かさに舌を巻く思いがする。

その中でも特に『OL進化論』は傑作である。
三十代から四十代の女性にもぜひ読んでいただきたい作品なので、
全巻購入をお勧めする。僕は、仕事に疲れたときは
ちょくちょく手にとります。

また、漫画家のおもしろさをはかる基準に、
その『影響力』があると思う。
『北斗の拳』以降の拳法漫画がみんなあの絵になっちまったように、
『スラムダンク』以降のスポーツ漫画のキャラクターが、
みんなあれの使いまわしになっちゃったように、
どれだけ後発の漫画にパクリが生まれるかは、
その漫画の価値基準の一つである。

秋月りす以降の女性四コマ漫画家で、彼女の影響を
こうむっていない人はほとんどいない。
『○○○クラブ』その他で連載しているのはほとんど、
彼女の亜流だと言ってもいい。
秋月りすは、いずれ新聞連載を始めて
(今も日曜版ではやっているけど)
平成の長谷川町子と呼ばれる存在になることを予言してみよう。
2000年10月    ヒロポン

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