CINEMA  REVIEW  1999

最近見た映画(★★★★…お勧めです!★★★…見ても後悔はしないでしょう。★★…つまらなかった!)の感想です。あくまで、私の個人的な判断ですので、参考にして下さい
 
 
 

8月  アイズ・ワイド・シャット      ★★新宿東映会館
 

キューブリックが最後に残した最大の失敗作

うだるような熱さの中、廃墟のような新宿三越へダリ展を見に行った後に見た。平日の月曜というのに、客席はほぼ満員だった。キューブリックの遺作という宣伝効果は大きい。期待して見に言ったのだが、それはほぼ裏切られる事になった。その日「アンダルシアの犬」というブニュエルの傑作映画(わずか15分だが)をダリ展で見た後だけに、一層その感は強かった。

ストーリーは書かなくても、さんざん雑誌で紹介されているので、ご存知だろうと思う。エリートの医者(トム・クルーズ)がある日、妻(ニコール・キッドマン)から浮気の願望の告白をされ、嫉妬に囚われてしまう。
(確かにこの映画のニコール・キッドマンは本当に美しい。)その日、自分の患者が亡くなり、外出することになった医者は、その感情から逃れる為に商売女を買おうとするが果たせず、偶然再会した昔の学友を通じて秘密のOGパーティーへ潜入する事になる。そこに行くまでにも、得体の知れない貸衣装屋に行き、店主の娘の売春騒ぎに巻き込まれたりして、さながら地獄めぐりの様な感がある。
だが、結局医師とその妻の間には束の間の諍い以外に、何も起きはしない。

何かおきそうで、何もおきない息のつまるような緊張感、それは医者の囚われている嫉妬の感情なのだが、それに観客も付き合わされる事になる。ロンドンでニューヨークのセットをフェイクとして作り上げた映像は評価に値すると思う。しかし、ラストの妻との禅問答のようなセリフはどうも頂けない。ものごとは見方によっては、どうにでも解釈出来るということを言いたかったと思うのだが、ありきたり過ぎるような気がした。これで終わってしまうのかと拍子抜けした人も多いだろう。途中のOGシーンも実に古典的。猥雑さとは程遠かった。また、街をさ迷い歩いて帰ってくると、ベッドに仮面が置いてあり、妻がすべてを察していた事を知ったトム・クルーズが号泣するあたりなど、山田太一のドラマを連想してしらけてしまった。特にラストだけではなく、この映画全体にいえることなのだが、破綻が全くない映画である。類型的な映画とも言える。なぜ、キューブリックはこんなテーマを撮ろうという気になったのだろう?

正直言って、この映画を見た後思ったのは、キューブリックが自分の守備範囲ではない映画を死ぬ前にどうしても作りたかったのだろうという事だ。それが成功するか、しないかはともかくとして、自分の為だけに映画を撮りたかったのではないかという気がする。キューブリックほどの映画監督が自分の不得意分野を把握していない訳がない。キューブリックといえば、今まで見た映画から「スタイル、映像モード」を究極まで追い求める映画作家であって、人間描写には全く長けていない監督だというのが私の感想である。だから、そういうものが殆ど必要のない「2001年宇宙の旅」「時計仕掛けのオレンジ」「博士の異常な愛情」がよかったのだ。SF的な殆ど、非日常の登場人物の悩みなどまったく関係の世界…。その事は、反対に人間描写が核になる「シャイニング」「バリーリンドン」のつまらなさ(魅力的な部分もあるが)がそれを象徴している。
キューブリックは人間の悩みを描いた映画を撮りたかったのではないか、それが自分の得意分野でないと判ってはいても。そこで、最後にどう考えても失敗作にしかならない映画を撮る事になってしまったわけだ。もしかすると自分の最後の作品になると判っており、映画の評価など度外視していたかもしれない。つまり、「遺言」として撮った映画。

この映画を見て、黒澤明の「夢」とフェリーニの「ボイス・オブ・ザ・ムーン」という巨匠のやはり晩年の無残な失敗作を思い出してしまった。名監督というのは何故、最後に失敗作を撮ってしまうのだろう?
また、映画の主人公にハリウッド現役の夫婦を使うというアイディアはいいとして、何故もっと無名の俳優を使わなかったのだろう?ニコールキッドマンと、トム・クルーズのプロモーション映画を見に来たような錯覚に陥ってしまったくらいだから。結局、この映画はキューブリックの狙いに反し、主演俳優のみがやたら目立つ作品になってしまった。
「キューブリック映画の主人公を見事にやり遂げたトム・クルーズとニコール・キッドマン」という2時間半の長大なCMを見たような思いがしてしょうがなかった。やはり、夫婦の間を描いたベルイマンの「ある夫婦の記録」に比べるとその違いは歴然としている。やはり、破綻が起きた後に夫婦がもとのサヤに戻るという内容にしたほうがよかったのに。

妻の救いのセリフの後に、2人がOGパーティーの参加者の前に現れて、からみを演じる「時計仕掛けのオレンジ」のようなトリッキーなシーンで終わっていればそれでも少しは救われたのだが。キューブリックは、監督のクレジットが入っていればどんなクズ映画も永遠にその監督の作品として記憶されてしまう、と自ら語っていたが、然り。
この映画はキューブリック最後にして、最大の失敗作として永久に映画史に刻まれる事になるだろう。
あ、いかん。調子に乗って書かなくてもいいことまで書いてしまった。

最後に、この映画のパンフも最悪だった。この映画のことには殆ど触れず、過去の映画のことばかり書いていて800円もした。ビデオのPRをしたかったのか?どちらにしても、今年のワーストパンフ賞に決定。
 

(99.9.4)



7月  I WANT YOU      ★★★★飯田橋ギンレイホール






ウインターボトムが描き出す90年代フイルム・ノワール

雨の7月の土曜に久しぶりに、飯田橋ギンレイ・ホールへ出かけた。
香港映画「ラブソング」を見て以来だから、8ケ月ぶりということになる。

今回のお目当ては、I WANT YOUという映画で、エルビス・コステロの妙に殺伐としたラブソングから、映画をイメージしたという所に惹かれた。どこか、ノワール的な香りを無意識のうちに感じとっていたのかも知れない。映画の内容は、刑務所の服役を終えた男がひなびた海の近く町に帰ってくる。理由はかつての恋人に再会する為である。
その恋人は、理髪師で地元のラジオのDJと付き合っているが、決して最後の線は超えさせない。また、恋人を慕う難民の少年がいて、その少年は盗聴マニアであり、DJとの会話を盗聴し、テープに録音して生放送で流したりする。
そして、その少年には地元のクラブでロックバンドのボーカルのバイトをする保護者的存在の女性がおり、その女性は毎晩違う男をベッドに誘い入れている。
この4人が複雑に絡み合い、物語は展開していく。

こういう風に書いていくと、いかにもエキセントリックな映画の様に思える。
しかし、実際はまったく逆のオフ・ビートな映画である。青を基調とした「何処でもない場所」で展開される物語は確かにパンフレットに書いてあるように、「神話的な」物語ととれない事もない。

しかし、この映画の特筆すべき点はやはりフィルム・ノワールの90年代的展開である、ということだ。
ヒロイン役のレイチェル・ワイズが妖しい魅力で、実に印象的。
彼女が美容室に勤めているというのが大きなモチーフになっている気がする。散髪という行為には何がしかのメタファーが確実に隠されている。一つの清めの儀式のような、隠微な気配とでもいうようなもの。
古い港町の美容室という設定もバッチリ嵌っており、実に効果的。また、ひなびた地元FMラジオ局もよい。主人公の家のプールも。そう、プールも犯罪に常に関係のあるメタファーだ。さりげなく、こうした舞台を登場人物同様に配置する事により、ノワール映画の雰囲気を濃厚に漂わせる事に成功している。画面に現れる場所のことごとくから、水が滴り落ちるような感覚がある。いや、水面下で展開されているような。なにか、犯罪から逃げられないという雰囲気が執拗に提示される。

そう、その意味からいうとクラブのライブシーンを始め、この映画は音楽が溢れているのに、不思議な程、音楽が耳に残らない。残るのは「I WANT YOU」のコステロの押しつぶしたようなボーカルと、歪むギターのエコーのみ。

映画のラストは敢えて書かないが、美容師を慕う少年にとっては痛みを伴う通過儀礼があり、美容師は街から去ることになる。主人公の一人でもある男はワイルドな男であるという割には妙にナイーブである。ここに、物語の結末のヒントが隠されているのだが。

ひたすら、子宮の中へ回帰していくような感覚、または一年中雲に覆われているような時の止まった街、マイケル・ウインターボトムはコステロの歌のざらついた感触をフィルムに定着することに成功している。決して解放感のある映画ではないが、この憂鬱な世界は不思議と居心地がよい。しかし、、少年が自殺した母の代わりに愛した美容師に最後に受ける仕打ちによって、少年が構築した「憂鬱だが居心地のよい子宮のような」自閉的空間は脆くも崩れ去るのだが。
観客も最後に同様の喪失感を、「映画と友に生きる事」により体験することになる訳だ。
マイケル・ウインターボトムの映画は要チエックである。また、気になる監督が現れた。
 

ベルベット・ゴールドマイン 

これこそ、ここ1、2年見た中で最悪の映画である。オスカー・ワイルドとグラムロックを勝手に結びつけるのもOK,ホモセクシャルを全面に打ち出すのもかまわない、また今時見かける事のない悪趣味な少女マンガ的ストーリー展開にも敢えて眼をつぶってもいい。しかし、ご都合主義で、ルーリードとベルベットとロキシーミュージックとデビットボウイをそれぞれの音楽の必然性を無視して、勝手にブレンドしているのは絶対許せない。これらのアーティストの生み出してきた音楽がたまたま一時期グラム・ロックとシンクロしていただけの話なのに。
実際、狂言自殺が失敗した事により、グラムロックが滅びた事になっているが、
今でも上記のアーティスト達はバリバリの現役ではないか。「ロックは変化していく」という視点がこの監督にかけているのが一番致命的な点だ。

グラム・ロック周辺を描くというのは実に魅力的なテーマであるとは思うのだが、
それだったらマークボランの映画にすべきだった。彼こそグラム・ロックの象徴なのに。また、なんで役者が絶望的なまでにカッコ悪いのだろう。Dボウイの硬質な美しさに全く近づけていない。
「ドアーズ」もそうだが、何故ミュージシャンを俳優が演じるとこうもダサくなってしまうのか。とにかく、最高に失望し、かつ腹がたった映画だった。

(99・8・9)



コーエン兄弟が放つアメリカ映画へのオマージュ
BIG RUBOUSUGI (98、アメリカ) 渋谷シネマライズにて
★★★★








大分前だが、年末渋谷に、カレンダーとCDを買うついでに見に言った。

ここは、結構お気に入りの映画館である。客席はほぼ満員。内容は、時は湾岸戦争の真っ只中、リボウスギ という大富豪に間違えられ絨毯に放尿されてしまった主人公が、(ボーリングが趣味のおちこぼれ)当の大富豪のところへ行き文句をいうが、逆にゴミ扱いされてしまう。しかし、お気に入りの絨毯を秘書をごまかして手に入れるが、そこへ富豪の妻が誘拐されたので探し出して欲しいとの富豪からの連絡が…。あとのストーリーは未見の方の為に割愛するが、
パンフでコーエン兄弟が語っているように「チャンドラー的なシチュエーションに巻き込まれた駄目男の冒険」が、確かにこの映画の根底を流れるものではあるが、
それよりも、この映画を見ていて感じたのはコーエン兄弟の映画に対するラブレター、幸福な映画に対するオマージュをこの一見荒唐無稽な映画を通じて表現したかったのではないか、という事だ。で、ターゲットはずばりニューシネマ以降の
70年代の例えばロバート・アルトマンがとっていたようなバカ映画、スケアクロウ、真夜中のカウボーイといったバディームービー、J・カサテベス、70年代のノワール映画などの要素と、40年代のミュージカル、西部劇つまり、アメリカ映画の 偉大なる歴史に対して。これらの要素をミカサーにかけて、シュールな味付けに したフィルムで、つまりはコーエン兄弟ならではの映画へのオマージュが堪能できる。

また、ボーリングという一見、非映画的と思えるものにスポットを当て、見事に躍動感のある映像を作り上げたのもこの映画の功績と言えるだろう。なんといっても、幻想のミュージカルシーン(ボーリングのレーンに見たてた)が最高に笑える。
このシーンは歴史に残るものになるな。
また、湾岸戦争の真っ只中というシチュエーションは今後も他の映画で取り上げられるかちょっと感心がある。

音楽で印象に残ったのはCCR。CCRのテープが主人公の大切な宝物なのだから、笑ってしまう。CCRを選んだセンスがいい。また、C・ビーフハートの「HER EYS ARE BLUE MILLION MILES」も聴ける。
 

キャスティングもまた絶妙。主人公のダメ男に、ジェフ・ブリッジス。これでこの映画の成功が約束されたようなものだ。私の大好きな俳優である。その映画のすべてが大好きだ。たとえば、スターマン、ファビュラス・ベーカー ボーイズ、八百万の死に様。人のいい中年不良 で、ナイスガイと言う言葉が最も似合う俳優である。また、ギャングにベン・ギャザラ(ジョン・カセベテス映画のの常連)、チャイニーズ・ブッキーを殺した男と反対のシチュエーションで登場させている。カセベテス監督への親愛の表現かもしれない。リボウスキの娘にジュリアン・ムーア。この人好きです。ちょっと危ない女性の役が似合う女性である。早く、ブギーナイツ見たいものだ。ジョン・ターツーロ、ジョングッドマンというコーエン兄弟組の快演はいうまでもない。しかし、パンフ見るまで暴れまくるウォルター役がジョン・グッドマンとは分からなかった。その怪演振りはちょっと凄い。
ファーゴをお好きな方も、嫌いな方も楽しめる映画になってるのでビデオになったら是非ご覧になって下さい。
(99.3.13)
 

コーエン兄弟お勧め映画

・バートン・フィンク (1991)
 大好きなサイコ映画。D・リンチ好きな人にはお勧め。

・未来は今(1994)
 これもいい。J・J・リー好きです。F・キャプラ好きな人にお勧め。

・赤ちゃん泥棒(1987)
 無条件にお馬鹿+楽しい映画です。まだ禿げてないN・ケイジが拝めますよ。
 

番外編:98年お勧め映画
 

エンド・オブ・ザ・バイオレンス下高井戸シネマ
★★★
久々に、ヴェンダース監督の作品で気に入った一本。なにか、起きそうでおきないオフビートな感じがパリ・テキサスを思い出て良い。
カブリエル・バーン。ピブ・ウルマンといったお気に入りの俳優が競演している。

ガダカ  恵比寿ガーデンシネマ
★★★★
切ないSF映画。しかし、見終わった後は熱いものが残るでしょう。
これはカルト映画として、確実に後世に残る映画だと思う。
「ブレードランナー」好きな人はおすすめ(ストーリー的に)
地味だけど嵌まりますよ!お勧めです。

イヤー・オブ・ザ・ホース  渋谷シネマライズ
★★★
ジャームッシュのざらついた映像感覚が新鮮。私みたいなN・ヤングファンの方は必見。暴れまくる危ないニールに唖然とするが。
今までのニールの記録映画の中では一番よいのでは?コンサートの記録映画であると共に、ロード・ムービー、またバンドを続けて行く上での様々な秘密を垣間見ることが出来る映画。ニールとクレイジーホースと言うバンドの親密な、しかし危うい関係。しびれます。
 

トゥルーマンショー  有楽町にて
★★★
レビュー書こうと思って果たせなかった1本。ストーリーが斬新だとは全然思わない。はっきりいって、ジム・キャリーの演技とピーター・ワイヤー監督の映画特有の後味の悪さが全てだった。

ムトゥ踊るマハラジャ  有楽町にて
★★★★
文句なく楽しい映画。落ち込んだ時はこの映画みて元気を出しましょう。ミュージカル映画はインドで蘇っていた事を知った。
 

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98年 レビュー