前回まで二回に分けて糖尿病のカロリー制限食と糖質制限食の現状について解説しました。糖尿病とは、インスリン作用の不足によって血液中のグルコース濃度が上昇する病態です。カロリー制限や糖質制限は短期的にインスリン不足を軽減し、長期的には体重減少を介しインスリン抵抗性を改善することを目的に行われます。インスリン注射は不足したインスリンを補充する治療であり、インスリン分泌が欠損しているT型糖尿病では必須の治療法ですが、U型糖尿病では多数の経口糖尿病薬が開発されてインスリン使用例は減少しています。従来の経口糖尿病治療薬は、インスリン分泌不全あるいはインスリン抵抗性を改善することを目的にしていました。
 今回紹介するSGLT2阻害薬は全く異なる作用機序をもつ新規薬剤で2014年に6種の薬剤が認可されています。腎臓におけるグルコース再吸収は、血糖の恒常性に重要な役割を持っています。健常人では、腎糸球体において、一日約180gのグルコースが血液から濾過されますが、腎近位尿細管に存在するナトリウム/グルコース共役輸送担体(SGLT1とSGLT2)によってその全量が再吸収され、尿糖は排泄されません。糸球体で濾過されるグルコース量は血糖値に比例し、血糖値が180mg/dlを超えると、濾過されたグルコースが再吸収しきれなくなり尿糖が出現します。糖再吸収の90%を担うSGLT2の機能を特異的に抑制する作用を持つ薬剤がSGLT2阻害薬です。薬剤による差がありますが、大体一日60〜100gの尿糖排泄が認められ、インスリンに非依存性に血糖を低下させるという新しい作用機序をもつだけでなく、糖尿病に伴う代謝異常の改善や体重減少作用が認められます。市販後一ヶ月調査では従来の経口糖尿病薬に比し、重症低血糖や脳梗塞発症などの重大な有害事象の発現は少ない印象があります。尿糖排泄に伴う利尿による脱水や尿路感染症の可能性も指摘されているので、本剤の安全性の確立には、本剤単独投与や他の糖尿病薬との併用における有害事象の正確なデータの蓄積が必要と考えられます。